2016年5月12日木曜日

ホタルブクロ根づく

 今年(2016年)初めて、義伯父の家の庭でホタルブクロが花を咲かせた=写真。苗を植えた覚えはないと、カミサンは言う。
 車で10分ほどのところにドクター(十数年前に亡くなった)の家がある。奥さんが東京の息子さんの家の近くに引っ越すことになり、「もう家を空ける」というおととしの秋、カミサンがリンドウを分けてもらった。庭から掘り取った土の中にホタルブクロの地下茎か種子が混じっていたのだろうか。

 ドクターの家の庭では、秋にリンドウが咲き誇った。庭木もあったが、丈は低い。陽光が庭一面に注いでいた。秋にリンドウが咲くような環境だから、初夏にホタルブクロが咲いても不思議はない。
 
「ドクターのリンドウ」はうまく根づき、1年後の去年、花が咲いた。ドクターは、リンドウがまだ庭に咲いていた晩秋、11月15日に亡くなった。それで、わが家では七五三の日をひそかに「竜胆(りんどう)忌」と呼んでいる。

 ドクターが亡くなったあとは、奥さんが独りで暮らしていた。何回となくダンシャリが行われた。その都度、電話がかかってきた。おびただしい蔵書の一部と食器、衣類、座卓、丸型プレート、未使用切手……。リサイクル・リユースに回せるものは回し、形見として手元に置きたいものは残した。

 気づいたら、季節の節目ふしめにドクターの形見が現れる。冬のホウレンソウ鍋はドクターから伝授された。もともとは映画監督・山本嘉次郎の得意料理だったらしい。鍋に水を張り、スライスしたニンニクとショウガを入れて、塩で味を調える。そこに豚肉と一枚一枚ちぎったホウレンソウを、しゃぶしゃぶの要領でくぐらせて食べる。それだけ。

 今年は正月に手あぶりでスルメを焼いた。端午(たんご)の節句の今は、床の間に「鍾馗(しょうき)」のいわき絵のぼりが飾られている。手あぶりも絵のぼりもドクターの家にあった。

「ドクターのホタルブクロ」は、よく見ると株が三つある。足かけ3年で地下茎が伸びたのだろうか。ただのホタルブクロかもしれないが、ドクターや奥さんとの交流を思い起こさせる意味では、特別のホタルブクロでもある。

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