4月最初の日曜日(1日)は、谷から第一の尾根がピンクに染まっていた。きのう(8日)は第二、第三の尾根、つまり奥の奥山までアカヤシオの花が咲いていた。春は、渓谷では下流から上流へ進むだけでなく、垂直にも駆け上がる。
アカヤシオの花にまじってヤマザクラが咲き始めた。谷底の小集落・牛小川では、道路沿いのソメイヨシノがてんぐ巣病にかかりながらも満開になった。梅の花は散ったが、ヤシャブシ、アセビ、アブラチャンの花が咲いている。
二十数年前、渓谷へ通いはじめたころ、集落の長老に教えられた。「ここは『五春』だよ」。梅、ハナモモ、アカヤシオ、ヤマザクラ、ソメイヨシノが時を重ねるようにして咲く。それだけではない。さみどり色、臙脂色、黄色、薄茶色……。木々の芽吹きがきれいだ。今年(2018年)はそれも早い。
隠居の庭に植えたシダレザクラは、1週間前はつぼみだった。これが満開になった。ところが、2本のうち1本のてっぺんは花が少ない。やっぱり。3週間前の日曜日(3月18日)、いわきでは冬に飛来する「漂鳥」のウソが3羽、こずえに止まって花芽をついばんでいた。てっぺんがはげる――心配したとおりになった。
昔のシダレザクラの写真を探したら、庭が除染されて初めて迎えた2014年春のがあった。殺風景な庭を見事に彩ってくれた=写真。データを見ると、撮影日は4月20日。今年の満開はそれより10日ほど早い。
天然木も園芸木も含めて、渓谷では1年で一番はなやぎが感じられるときだ。夏の季語に「万緑」がある。それにならえば、「三春」などといわずに「千春」、あるいは「万春」と表現したいところだが、それはいくらなんでも「白髪三千丈」になってしまう。やはり「五春」にとどめておこう、「桃源郷」は身近な所にある、という思いを込めて。
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