2018年4月8日日曜日

冊子『いわきの戊辰戦争』

 今年(2018年)は戊辰戦争から150年の節目の年――。いわき市内でも去年からこの戦いを振り返る講演会や戦跡巡りなどが行われている。
“語り部”のひとり、いわき地域学會副代表幹事の夏井芳徳さんが、『いわきの戊辰戦争』という冊子を出した=写真。市内各地の戦闘シーンが時系列で紹介されている。

 夏井さんは平成26(2014)年、福島県県文学賞の<小説・ドラマ>部門で正賞を受賞している。じゃんがら念仏踊りや獅子舞、袋中上人や俳諧など民俗・歴史・文学分野に通じ、人間が目の前にいるような“話芸”でファンが多い。
 
『いわきの戊辰戦争』は解説書ではない。史料を読み解いたうえで、人間と人間が対峙する読み物に仕上げ、持ち前の文章力と構成力で戦いを「見える化」した。古い世代は紙芝居を、若い世代、特に中学生、ひょっとしたら小学5・6年生はアニメを連想するかもしれない。

 それぞれのページに脚注が並び、戦争に参加した各藩の記録、藩士の日記などが参考文献として掲げられている。一般の人がこれらの文献を目にすることはほとんどない。参考文献を読んで市民が認識を新たにする、という効果も期待できそうだ。

 夏井さんから冊子の恵贈にあずかったころ、『常陽藝分』2006年12月号が家の隅から出てきた。「シリーズ・幕末から明治へ」の2回目で、<戊辰戦争「水戸藩と近隣諸藩の動き」>を特集している。「磐城平藩」の項では、当時市文化財保護審議会副会長だった故佐藤孝徳さんがコメントしている。

「安藤信正は通訳を介してではあるが幕府重役としては初めて、外国人と直接会って交渉にあたっており、『当時の幕閣にあって極めて有能・有識の人』だった。ただし、『自藩の軍事強化までは手が回らず、財政上も無理だったから、藩兵の装備は旧式、という事情もあって、平藩は敗戦を続けたようだ』という」。生きていれば、真っ先に話を聴きたい人でもある。

 夏井さんが冊子を出したのは、「戊辰戦争では、多くの若い人たちが命を失ったのです。いい方を替えれば、戊辰戦争は多くの若い人たちから、未来や夢を奪い取ってしまったのです。(略)私たちが一番しっかり学び取らなくてはならないこと、それは戦争をしてはいけないということだ」という思いからだった。
 
 この戦いでは、各地で火が放たれ、陣屋や名刹、民家などが焼き払われた。庶民にとっても迷惑な話だった。
 
 最後に、夏井さんから聴いたエピソードを一つ。平城下・三町目の旅宿「十一屋」には幕府軍が泊まっている。平藩の若者がフランス式の砲術を学ぶために十一屋へ通ったという。「装備が旧式」という孝徳さんの話と符合する。

0 件のコメント: