2019年2月13日水曜日

向田邦子ドラマ傑作選

 BS12トゥエルビは、ふだんは見ない。ところが最近は火曜日夜、カミサンがチャンネルを合わせる。向田邦子ドラマ傑作選が2時間枠で放送されている。向田ファンに付き合っているうちに、昭和前期の日本の近代史、なかでも庶民の暮らしを見ているような感覚になってきた。
 1週間前(2月5日)は「わが母の教えたまいし」=写真、きのうは<皇紀二千六百年>(昭和15年)ごろの「隣りの神様」だった。いずれも原案・向田、脚本・金子成人、監督・久世光彦の、30年ほど前のTBSドラマだ。前は「寺内貫太郎一家」をやっていた。NHKでも、師走にBSのプレミアムカフェで「阿修羅のごとく」を再放送していた。

たまたま数日前、カミサンが2階から向田の随筆集『夜中の薔薇(ばら)』を持ってきて、「これって、『ホウレンソウ鍋』と同じじゃないの」と、あるページを開いていう。「豚鍋」のことが書いてあった。

本棚はあらかた本が二重になっている。手前の本をはずすと、奥にまた背表紙が見える。断捨離を兼ねてカミサンが前にある本を、近くの故義伯父の家へ移すことにした。その作業中に『夜中の薔薇』が出てきたのだそうだ。

『夜中の薔薇』のタイトルは、ある女性が子どものころ、ゲーテ作詩・シューベルト作曲の「野ばら」に関して、「野中の薔薇」を「夜中の薔薇」と間違って覚えていたことに由来する。向田自身も、「荒城の月」の「めぐる盃」を「眠る盃」と間違って覚えていた。それをタイトルにした随筆集を出すと、似たようなエピソード(「兎追いしかの山」→「兎美味しかの山」など)が寄せられた。

 その本に「食らわんか」が収められている。「新らっきょうの醤油漬け」をつくる。北アフリカから帰って来たときには「海苔(のり)弁」をつくった。風邪気味なら「葱(ねぎ)雑炊」をつくる――手料理のあれこれを紹介するなかに「豚鍋」があった。

 詳細は本を読んでもらうとして、食材はしゃぶしゃぶ用の豚肉とホウレンソウだけだ。鍋で湯を沸かし、皮をむいたニンニクと、その倍量のショウガを入れる。そこへ豚肉を入れて、レモン醤油で食べる。肉を食べたら、次はホウレンソウをちぎってさっとゆで、やはりレモン醤油で食べる。

 ホウレンソウ鍋と豚鍋の違いは、たれ、だろうか。ホウレンソウ鍋は、お湯に塩と醤油で味をつける。豚鍋は、湯に入れるのは湯量の3割の日本酒で、たれのレモン醤油は小鉢に入れておく。

ちょうど2年前、朝日新聞生活面に「記憶の食」として、愛知のある家の「嘉次郎鍋」が紹介されていた。わが家で30年以上食べている「ホウレンソウ鍋」と同じだった。ホウレンソウ鍋は映画監督の故山本嘉次郎が考案した、とされる“簡単鍋料理”だ。

冬に人が集まったとき、ホウレンソウ鍋にすることがある。初めての人間も、一回ですぐ料理法が頭に入る。シンプルで飽きがこない。枝分かれするように料理が継承・伝播されて、あちこちでその家の冬の定番料理になっている。私自身も敬愛するドクター(故人)から継承した。

 向田邦子は、豆腐を入れてもおいしいが、豚肉とホウレンソウだけでいい、といっている。実際、私もドクターから伝授されたときには、豆腐も入れたが、今は省略している。必要がない、というより、豚肉とホウレンソウだけで満ち足りてしまうのだ。

 と、ここまで書いてきて、ホウレンソウ鍋が恋しくなった。夫婦2人では寂しい。また、人を呼んで“鍋奉行”をやるか。

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