2019年2月21日木曜日

「むすめきたか」を実食

 いわきの山間地で栽培されている在来小豆「むすめきたか」は、小粒で皮が薄い。嫁に行った娘が里帰りしたときにすぐ煮て食べさせられる――というので、その名が付いた。
 2月10日にいわき昔野菜フェスティバルが開かれた。カミサンが「むすめきたか」を手に入れた。

 きのう(2月20日)、近所のTさんがわが家にやって来た。米国・コロンビア大学の博士課程にある女性が、「原発労働者とその家族の暮らし」を中心に調査研究をしている。Tさんは、原発とは直接関係ない暮らしをしてきたが、双葉郡からの避難者だ。仲立ちをした縁で、わが家でインタビューをすることになった。

 彼女が来るまで時間があった。カミサンが石油ストーブで「むすめきたか」を煮た=写真。普通の小豆だと前の晩に水に浸しておく必要がある。が、「むすめきたか」はそのまま水を張って煮ればいい。

 そこへ博士の卵が現れた。彼女は、母親が日本人で、日本語でやりとりができる。女性3人に男が1人。男の私からすると、母・娘(というよりは妹に近いか)・孫が、「むすめきたか」を煮て、今にも「おやつ」にして食べようか、という図に見えた。

 煮る。Tさんの指示に従って、カミサンが水を足す。小豆がどの程度ほぐれたかを、Tさんが舌で確かめる。カミサンが砂糖を加える。Tさんが「味がない」という。また、砂糖を足す。水に入れて煮てから、「これでいい」となるまで、30分しかかからなかった。4人で「ゆであずき」を楽しんだ。なるほど、これだと里帰りした娘に、すぐ「つくってやるから」といえるわけだ。

 肝心のインタビューは、どうだったか。元ブンヤとしては、彼女が意図していたことの4分の1も聞きだせなかったのではないか、と思う。しかし、最初から全部吐き出せるような人はいない。何度も顔を合わせているうちに、自然と本音が出るようになるものだ。

 たびたび話が脱線した。Tさんは原発事故の前、キノコ採りをした。「マツタケは採ったことがないけど、イノハナ(コウタケのこと)はいっぱい採った」という。イノハナは、阿武隈高地ではマツタケ以上に好まれる高級菌だ。

私も調子に乗ってキノコの話をした。博士の卵は「アメリカでもマツタケが採れます」。「それを食べるのは現地に住む日本人で、日本に輸出してるんだよね。アメリカ人はあまりキノコに関心がないし」「そうです」

そこからまた原発事故の話に戻った。原発事故が罪深いのは、人の生命を危険にさらすだけでなく、市民の「自然享受権」を広範囲にわたって奪うことだ。趣味の釣りやキノコ狩り・山菜採り・家庭菜園などの“生きがい”“楽しみ”をぶちこわした罪は、どう償うのか。領収書とは無縁の世界にいる人たちのうらみつらみ。これも、頭に入れて調査するといい――そんなことを勝手に“アドバイス”していた。

「むすめきたか」を含めたいわきの昔野菜も、原発震災前に調査事業が始まったからこそ存在が知られ、危機感が生まれて、市民の間に種を継承・存続しようという動きが強まった、と私は思っている。

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