2019年2月1日金曜日

老化と劣化

 BSプレミアムで「再現 明治天皇の晩餐会」を見ていたときのことだ。「フォアグラのアスピック香草添え」というのが登場した=写真。
 晩酌中で神経がゆるんでいたせい、というよりは老化だろう。頭には「フォアグラ」という言葉が浮かんでいたのに、口から出てきたのは「フェラガモ」だった。カミサンが驚いてこちらを見た。「フォアグラでしょ! フェラガモなんて、高級ブランドをよく知ってるね」。なにかファッション関係の印象があったが、中身は知らない。新聞か雑誌の広告で名前を覚えていただけだ。

フォアグラは世界三大珍味のひとつ、「肥大したガチョウの肝臓」だ。三大珍味のうちトリュフ、キャビアは試食したが、フォアグラは……食べた記憶がない。食べたとしても、それとは知らずに、だろう。その程度だから、「フェラガモ」の「ガモ」からカモ(鴨)を連想し、次いでガチョウが思い浮かんでフェラガモと言ってしまったようだ。

言葉、つまり言葉が指し示すモノ・コトへの注意力が落ちている。老化と劣化が同時におきている。「アレ、アレ」。頭ではわかっていても、言葉が出てこない場面が増えた。老化と劣化を実感する瞬間だ。すると、誤った用語や慣用句も誤用の認識が薄れて使い始めないともかぎらない。

現役のときの“辞書”といえば、広辞苑などよりは共同通信社の『記者ハンドブック 新聞用字用語集』だった。なかでも、「誤りやすい用字用語・慣用句」のページは、毎日のように開いた。今もハンドブックをそばに置いている。

つい誤用してしまいがちなのが、「明るみになる」(正しくは「明るみに出る」「明らかになる」)、「第1日目」(同「第1日」「1日目」)、「まだ未解決」(同「未解決」「まだ解決していない」)など。ハンドブックにはないが、「雨模様」も誤用される言葉のひとつといっていい。正しくは「雨が降っている状態」ではなく、「今にも雨が降りそうな空模様」のことをいう。

「満天の星空」(正しくは「満天の星」)も、「第1日目」、あるいは「富士山山(ふじさんやま)と同様、重複表現だ。この誤用を最近、話し言葉の総本山ともいうべきNHKのアナウンサーがやった。別の番組でもやった。連発するということは、これは組織的な劣化ではないのか――なんてあきれているうちに、自分の「フォアグラとフェラガモ」の話を思い出したのだった。

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