2019年2月17日日曜日

家によっては「常夜鍋」と

 基本はしゃぶしゃぶ用の豚肉とホウレンソウ。作家向田邦子の随筆集『夜中の薔薇』に出てくる「豚鍋」だ。わが家で冬に食べる「ホウレンソウ鍋」と同じではないか。そう書いたら――。
 内郷のKさんからフェイスブック経由で、「常夜鍋」と教えられた、「とてもおいしかった記憶がある」というコメントが入った。カミサンの平の同級生も、はがきでコメントを寄せた。「私は友人から『常夜鍋(とこよなべ)』とおそわって食べてました」

「豚鍋」がところを変えて「ホウレンソウ鍋」になり、「常夜鍋」となる。どれが元祖で、どれが亜流、ということではないだろう。私もまた、昵懇(じっこん)にしていたドクターから教えられたが、ドクターは、映画監督の山本嘉次郎がテレビで実演していたのを見て覚えたそうだ。

同じようにして知ったのだろう。愛知のある家では「嘉次郎鍋」として「ホウレンソウ鍋」を食べていることが、新聞の生活面に紹介されていた。

 Nさんのはがきには、「『常夜鍋』で検索してみて」とあった。最初に出てきたもの=写真=だけで十分だ。これには「じょうやなべ」と仮名が振ってあったが、「とこよなべ」でも「じょうやなべ」でもかまわない。それぞれの家で好きなように呼べばいいレベルの話なのだから。

「常夜鍋」は、豚肉以外はなんでもあり、のようだ。ホウレンソウの代わりに小松菜、白菜、キャベツを入れる。味付けは、「豚鍋」は小鉢にレモン醤油だが、「ホウレンソウ鍋」は鍋の湯そのものに塩と醤油を加えて調える、「常夜鍋」はポン酢醤油というから、小鉢をつかうのだろう。どれも違って、どれもいい、のだ。

料理を創作するのは、なにも料理店のシェフだけではない。家庭の台所をあずかっている主婦、ないし主夫が、家族のために、簡単で体にいいものを、とあれこれ考える。見たり、聞いたりする。それらを踏まえて試したものが受け入れられれば定着する。

具材も、家族の好みによって変化する。ただし、「豚しゃぶ」であって「牛しゃぶ」でないのは、「牛しゃぶ」だとお湯が濁るからで、これは経済より見た目の問題だと私は思っている。

 豚鍋=ホウレンソウ鍋=嘉次郎鍋=常夜鍋=豚しゃぶ(豚ちり)は、一人の人間が創作したというより、同時多発的にあちこちで試みる人がいて、口コミで広まった。それに輪をかけたのが、テレビというマスメディアだった、ということではないか。いずれにせよ、豚肉とホウレンソウの組み合わせは広い範囲で受け入れられていることがわかった。

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