2019年2月2日土曜日

「ジーヴズの事件簿」

 去年(2018年)秋に皇后・美智子さまが84歳の誕生日を迎えられたとき――。文書で、退位後の楽しみに読書を挙げ、「ジーヴスも二、三冊待機しています」と付け加えられた。
ジーヴス? 初耳だ。私のなかでは、美智子さまは世界の児童文学に精通している文学者だ。外国の有名なシリーズ物か何かだろう、とは思ったが、頭はキノコのことでいっぱいで、そのまま年を越した。

ジーヴスの名を知ってから3カ月。カミサンが『ジーヴズの事件簿 大胆不敵の巻』文春文庫(2018年11月25日第10刷)を買った=写真。帯に「ジーヴスも二、三冊待機しています」と、美智子さまの回答文が引用されていた。作者はP・G・ウッドハウス(1881~1975年)。イギリスのユーモア小説作家だという。

ではと、カミサンより先に読み始める。バーティ―は暇を持て余す伯爵位継承予定者、ジーヴズはその執事。バーティ―を軸に、幼なじみのビンゴなどが絡んで物語が展開する。が、事件が起きると、うまく着地点を探り、解決に導くのはジーヴズだ。控えめな執事、いわば脇役が真の主人公、ということらしい。

美智子さまは文学者――そう感服したことがある。ざっと20年前の平成10(1998)年、第26回IBBY(国際児童図書評議会)ニューデリー大会で、ビデオで基調講演をし、日本語版が夜、NHK教育テレビ(現Eテレ)で放送された。

飲み会が終わって帰宅したら、カミサンが講演を聴いていた。私も酔眼でテレビと向き合っているうちに、だんだんと引きつけられた。番組が終わると、感動と体内アルコールとで興奮状態になった。「いいこと言ってる、宮内庁に電話して! 『よかった』って」

酔っ払いがしつこくいうものだから、カミサンが104番(電話番号案内)にかけた。番号案内サービスの方もびっくりしたらいい。「宮内庁、ですか?」。で、教えられた番号にかけると、録音テープで、きょうの業務は終わりました、用のある人はあしたまたかけてください、といった内容の音声が流れたそうだ。

 ゆうべ、宮内庁のホームページを開いて、「子供の本を通しての平和――子供時代の読書の思い出」と題する当時の基調講演の内容を確認した。前半で児童文学や古事記・日本書紀に触れ、後半で詩のことに言及している。ブッセ、ジャム、ブレーク、フロスト、タゴール、ケストナー……。フロストの場合は「牧場」という短詩も引用していた。このくだりにしびれたのだと思う。

つい先日のことのように、美智子さまのそのときの映像が思い浮かぶのは、“酔耳”にも小説や詩への愛がはっきり感じられたからにちがいない。

「読書は、人生の全てが、決して単純ではないことを教えてくれました。私たちは、複雑さに耐えて生きていかなければならないということ。人と人との関係においても。国と国との関係においても」ということばに、また深い共感を覚えた。

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