2021年7月26日月曜日

流域治水

        
 購読している雑誌は2冊。現役のころは、7冊前後は取っていた。減った理由はカンタン。支出を減らす指令が出て、ここ数年の間に順次数を減らしていった。農文協の「季刊地域」もその1冊だった(はずだ)。

付き合いのある書店がときどき、「どうですか」といって本を持って来る。つい買ってしまうこともある。今度の「季刊地域」も、そうやって持って来た。(それとも、まだ購読をやめることが伝わっていなかったか)

地域の防災力強化を特集している。それに引かれて、積まずにすぐ読んだ。かねがね気にかかっていることが書いてある。「『災害文化』としての水害防備林」。筆者は東京女学館高校教諭の長尾朋子さん。長尾さんの専門は応用地理学・地形学だという。

福島県から発し、茨城県北部で太平洋に注ぐ久慈川の中~下流域も、いわき市の夏井川流域と同じように、令和元年東日本台風で大きな被害を受けた。

長尾さんは常陸大宮市にある水害防備林(マダケ林)と霞堤の意義・歴史、災害復旧事業への懸念などをつづる。

いわきでは県が夏井川などの河道掘削・伐木などの「緊急水災害対策プロジェクト」を実施している。久慈川でも同様に、「緊急治水対策プロジェクト」が進められている。

長尾さんは書く。「連続堤による対策が間に合わないとして、この地域にもともとある霞堤を積極的に取り入れた対策は評価できる」。しかし、「本来は霞堤とセットで機能を発揮するはずの水害防備林を、洪水がすみやかに流れるのを妨げるとして国が伐採しはじめた」のは問題だ、という。遊水池としての耕地への流木・土砂の流入が抑えられないからだ。

夏井川がいわきの平野部、小川町に入ると間もなく、両岸に竹林が連なる。かつては竹林が洪水の勢いをそぎ、破堤を防ぐようなことを聞いていたのだが、今はとにかく洪水を速やかに流す――が国の方針で、久慈川同様、小川の竹林もいずれ姿を消すのだろうか。

同地出身の詩人草野心平の詩に「故郷の入口」がある。平駅(現いわき駅)に着いたあと、磐越東線の「ガソリンカー」に乗り換え、ふるさとへ向かう。赤井、小川郷と駅は二つ。赤井を発車するとすぐ、赤井と小川の境の切り通しが近づく。「切り割だ。/いつもと同じだ。/長い竹藪。/いつもと同じだ。」

河道掘削・伐木が始まって以来、この「長い竹藪」=写真=が気にかかっていたのだった。長い歴史を持つ「竹藪」がやがて、心平の詩のなかだけの存在になってしまうのか。

令和元年東日本台風の甚大な被害などを踏まえ、国交省は「流域治水」の考え方を打ち出した。堤防整備、ダム建設・再生などの対策をより一層加速するとともに、集水域から氾濫域にわたる流域のあらゆる関係者で水災害対策を推進するのだという。

県が管理する2級河川の夏井川と鮫川でも、流域自治体などが加わって流域治水協議会を組織し、8月を目途に「流域治水プロジェクト」を策定する。

水環境だけでなく、治水そのものを流域全体で考えなければならないほど水害が激甚化・頻発化している、ということなのだろう。

折から台風8号が明27日午後、太平洋沖から直接、関東~東北地方に上陸し、日本海へ抜けることが予想されている。いわきを直撃しないか心配だ。

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