2021年7月6日火曜日

土砂災害警戒区域

                      
   急傾斜地に住宅とホテル・旅館・保養所などが張り付いている。その間を、上方から土煙をあげて土石流が駆け下る。木造住宅があっという間に飲み込まれて姿を消す。

 住民が撮影した動画がツイッターに投稿された。最初、それを見たとき、いたずらではないかと思った。ありえないことが映っている。いや、それを現実とは認めたくなかったのかもしれない。

 テレビがニュースで動画を引用した。道路に止まっていたポンプ車が後退する。警官だか消防署員(あるいは団員)だかが走って逃げる。

あのとき、2011年3月11日もそうだった。情報を得るためにテレビをつけっぱなしにしていた。と、NHKがヘリから大津波の映像を生中継した。かたずをのんで画面に見入った。見入るしかなかった。黒い波が陸地を襲い、なおも住宅を、農業用ビニールハウスを、車を飲み込んでいく。想像を絶する破壊力に、これは現実なのか、幻ではないのかと、頭が混乱した。そのとき以来の衝撃だ。

熱海市伊豆山地区。急傾斜地に張り付く建物の間を道路が縫い、橋が架かっている。橋の上流、ふだんはチョロチョロと水が流れているだけ(テレビのインタビューに住民が答えていた)の逢初(あいぞめ)川を、土石流が一気に駆け下った。その量に圧倒された。ここまで自然(雨)は自然(急傾斜地)を破壊するものなのか。

新聞・テレビの続報で知ったのだが、土石流の最上流部付近では宅地開発が行われた。盛り土によって谷を埋め立てたのだという。その盛り土部分を含めて大規模な崩落が起きた。

一帯は土砂災害警戒区域に指定されている。熱海市のハザードマップを見ると、逢初川の最上流部は土砂災害(急傾斜地の崩壊)の特別警戒区域と警戒区域に、その下流域は土石流の警戒区域になっていた。

 流失した家屋は少なくとも約130棟、死者は4人、所在不明者は64人(7月5日現在)という。暗澹とした思いになる。

いわきでも至る所に土砂災害危険個所がある、ヒトゴトではない。個人的なことをいえば隠居のある夏井川渓谷、ここは両岸に沢が連続する。小川エリアでは左岸・県道小野四倉線、JR磐越東線の山側に4カ所ほど、土石流の危険個所がある。わが隠居は「下の沢地区」の土砂災害警戒区域=写真=に引っかかり、隣の地区の友人宅は同特別警戒区域内に含まれる。

友人夫妻は大雨が予想されるときには、平市街の元の自宅で過ごす。私ら夫婦も大雨の日には、隠居へ行くのを控える。熱海の災害動画を見て、あらためて「大雨になりそうなときは隠居へ行かない」と決めた。

 にしても、山上の谷を埋めて宅地にしようという発想は、熱海が温泉と保養の地だからか。報道によると、持ち込まれた残土の中には産業廃棄物が含まれていた。土地はその後、別の会社が買い取り、市の指導で植林したが、木が育たないままに崩落が起きた。

静岡県の川勝平太知事は「盛り土部分が全部もっていかれた」「大変危険な手の加え方」だとコメントしている。梅雨期の大雨が事故の誘因だったとしても、人間の欲望が被害を大きくしたことはまちがいない。自然と人間の関係がこれまでとは全く違ったものになってきた。そのことを知らされて、日本全体が慄然としている――そんな印象をもつのは、私だけか。

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