いわき市立草野心平記念文学館で、7月17日から「中原淳一展――美しく装うことの大切さ」が開かれる。ファッションデザイナー・イラストレーター・編集者……。カミサンたちは中原に引かれた世代のしんがりに位置するらしい。このところ、何十年も前の雑誌を引っ張り出してはパラパラやっている。
婦人雑誌の「ハイミセス」昭和60(1985)年春号は、女優の香川京子さんが表紙を飾る。そこに「<特別企画>中原淳一の魅力」の文字が躍る。
中原淳一の名前は聞いたことがあっても、人となりや作品については全く知らない。雑誌をめくっていたら、特別企画に行き着く前に「伊豆山(いずさん)温泉」の文字が目に留まった=写真。大規模土石流が起きた、あの熱海市伊豆山地区にある温泉ではないか。女優高峰秀子・映画監督松山善三夫妻が「旅は道連れ雪月花」に登場し、伊豆山温泉・熱海・箱根を旅する。
伊豆山温泉と熱海については、①谷崎潤一郎が伊豆の山荘で『瘋癲(ふうてん)老人日記』を書いた(松山)②評判の日本旅館「蓬莱」に泊まり、サラリとした気持ちのいいお湯に入り、料理を堪能した(高峰)③ヘンリー・ムーアの彫像作品のあるMOA美術館を訪ねた(高峰)④熱海市渚町のレストラン「スコット」で谷崎一家と料理を共にした(松山)――といったことがつづられる。
ネットで検索する。温泉旅館は主に海岸部、といっても傾斜地にある。「蓬莱」は星野リゾートとの共同経営に替わった。谷崎が住んだ家も海寄り、被害現場からは少し離れている。この事故の影響なのか、ホテル・旅館などは臨時休業に入った。MOA美術館も被害はなかったが、臨時休業をして駐車場を救助活動の対策本部に提供している。
フェイスブックで知ったのだが、造園設計事務所代表高田宏臣さんという人が、土石流がおきるとすぐ現場に飛んで観察したことをホームページ「地球守」のコラムで報告している。谷への盛り土とその後の開発行為を踏まえて、土石流は急傾斜の谷で川底が「泥つまり」をすると発生しやすくなる、山や谷の健全性を保つために、土木造作には土中環境への視点が必要――そんなことを指摘していた。
高田さんは『土中環境』という本を書いている。この本も、カミサンが図書館から借りてきた『文藝春秋』2021年1月号、「コロナ下で読んだ『わたしのベスト3』」のなかで知ったばかりだ。
中島岳志東京工大教授が紹介している。「土の中に広がる生態系に注目し、近年多発する土砂崩れや土石流の原因に迫る。そして、自然に沿う知恵を身につけた古の行者・修行僧に注目し、人間と自然の関係性に迫る」
『土中環境』は図書館にはない。代わりに、谷崎潤一郎全集第20巻(熱海などでの「疎開日記」が入っている)ほか1冊を借りて読んでいる。『土中環境』は買ってでも読んでみたい本だ。
こうして、「ハイミセス」の「<特別企画>中原淳一の魅力」はすぐそこにあるのに、まだたどりつけないでいる。
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