プーチン大統領がウクライナ侵攻1年を前に、年次教書演説を行った。全国紙によると、「戦争を始めたのは彼らだ」といったそうだ。「彼ら」とは欧米、つまり「西側」のことだろう。
「西側は19世紀から、今はウクライナと呼ばれる歴史的な領土を我々から引きはがそうとしてきた」とも述べたという。
この1年、折に触れてウクライナ侵攻について言及・解説している本や雑誌を読んできた。で――。ウクライナはロシアの歴史的な領土というプーチン大統領の発言は、彼独特の歴史観かと思っていたら、どうもそうではないらしい。
年2回発行される総合雑誌に「アステイオン」(サントリー文化財団、アステイオン編集委員会編集)がある。平成3(1991)年にいわき地域学會がサントリー地域文化賞を受賞した縁で毎回、恵贈にあずかっている。
最新の97号は特集「ウクライナ戦争――世界の視点から」だった=写真。去年(2022年)11月に発行された。
96号は同年5月発行だから、2月の段階ではすでに次号の特集企画が決まっていたはずだ。そこへロシアのウクライナ侵攻がおきた。急きょ、特集を組み替えたのだろう。
特集の中では、ウクライナで生まれ、今はドイツのヴィアドリナ欧州大学教授を務める歴史学者アンドリー・ポルトノフ(1979年~)の論考「ウクライナの抵抗力の源泉――プーチンの理解を超えた多様性の力」が参考になった。
この論考でまず驚いたのは、当局から弾圧された旧ソ連の作家で、のちにノーベル文学賞を受賞したアレクサンドル・ソルジェニーツィン(1918~2008年)のウクライナ観と、プーチン大統領のそれが全く同じということだった。
ソルジェニーツィンの論考は、邦題が『甦れ、わがロシアよ――私なりの改革への提言』(NHK出版、1990年)で、ポルトノフはこの本を批判的に紹介している。
ソルジェニーツィンは「ウクライナはロシアの歴史とロシア人に属するものであり、その独立――ロシアからの『分割』――を『共産主義時代に凋落したことの帰結』であるとした」。
ソルジェニーツィンまで――と思う一方で、ロシア国民の大多数がプーチン大統領を支持しているのは、どうもプロパガンダだけでは説明がつかない、そんな気持ちが膨らむ。
特集に組み込まれている廣瀬陽子慶応義塾大学教授の「プーチンはなぜ予想外の戦争を始めたか」もまたそれを裏付ける。
「コロナ禍で孤独な日々を送っていた間、プーチン大統領は歴史書を読み漁り、独自の歴史観を構築していたという」
それが、2021年に発表された論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」になった。
結果、「ウクライナは本来、主権国家であるべきではなく、ロシアの一部であるべきであり、また2014年以来、ウクライナは西側世界の手に落ちてしまったので、ロシアが救済しなければいけない」という理屈になる。
「アステイオン」を読み返すたびに、この「見下し」観からすべてが始まっているのか、という思いが強まる。
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