藝文風土記「常陸国うつろ舟奇談」の謎――。「常陽藝文」2023年2月号が、UFOのような円盤状の舟について特集していた=写真。
江戸時代後期の享和3(1803)年、常陸国の海岸に円盤に似た舟が漂着する(正確には、沖に漂っているのを浜の人間が見つけ、船を出して引き揚げた)。船内には奇妙な文字が書かれ、箱を持った異国人のような美しい女性がひとり乗っていた――そんな前文から特集が始まる。
江戸時代のミステリー「常陸国うつろ舟奇談」は、舟の漂着から20年ほどたった文政8(1825)年、滝沢馬琴が編纂(へんさん)した奇談集『兎園(とえん)小説』に収められたことで広く知られるようになった。
水戸市の常陽史料館で3月19日まで、企画展「不思議ワールド うつろ舟」が開かれている。それと連動した特集だろう。
細かい話は省略するが、現代のUFOを連想させるような舟のミステリーが近世にあったことに驚いた。
で、「うつろ舟」をもっと知りたくて図書館の本を検索したら、風野真知雄著『耳袋秘帖 妖談うつろ舟』(文春文庫、2014年)に出合った。
「常陽藝文」では奇談をモチーフに、澁澤龍彦が小説に仕立てていることを紹介していた。それも図書館から借りて読んだ。
風野真知雄の作品は初めてだった。しかも作者は須賀川市在住と、ネットにあった。膨大な作品を書いている。同じ福島県人ではないか。そういう“身びいき”を割り引いても、『妖談うつろ舟』はおもしろかった。一気に読んだ。
「常陽藝文」の特集と同様、馬琴らの『兎園小説』の紹介から始まる。それを枕にしながら、作者は「漂着」とは逆の「渡海」の物語を展開する。
「さんじゅあん」という新興宗教の教祖のような人物が登場する。その教祖がこの世から楽土へ向かうための舟だった、ということが次第に明らかになる。
異国の女性は、小説ではそう演じる日本女性で、名を「まりや」といった。まりやは苦界に身を落とすところを、さんじゅあんに救われた(さんじゅあんの「さん」は「聖」、じゅあんは寿安、つまり「聖・寿安」だろうか)。
2人はやがて結ばれる運命らしい。「わたしは神の子。この世の真実を告げ、最後は神によって救われると説く。お前はまりや、やがて、わたしとのあいだにうまれる神の母になる女だ」
さんじゅあんは牢に入れられ、駕籠(かご)で移動中に事故死する。遺体は信者たちに引き渡される。
安房にはさんじゅあんを慕う者たちが移り住み、新しい村ができた。まりやはそこへ戻り、信者たちに奇妙な舟をつくらせる。さんじゅあんが乗って、遠くへ旅立つのだろうと、信者たちは思った。
さんじゅあんの死を知らないまりやは、「海をさまよっていた。さんじゅあんが乗るはずだったあの奇妙な舟に乗っていた」というところで物語は終わる。つまり、現実の「兎園小説」に還(かえ)る。みごとな連結というべきか。
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