新聞とテレビのニュースだけでは「深層」がわからない。地方に住む人間としては、とにかく本を読むしかない。
当面、頭から離れない疑問はロシアのウクライナ侵攻や、日本の今の政策決定過程だ。どうしてそうなるのか、なったのか――。
頭をからっぽにして(ニュートラルな状態にして)、そこに入ってくるものを吟味する。すぐ答えは出さない、いや出せない。なにかがかたちになって発酵するのを待つ。
山口大学名誉教授で歴史学者の纐纈(こうけつ)厚著『ロシアのウクライナ侵略と日本の安全保障――長期化する戦争の果てに』(日本機関紙出版センター、2022年)=写真=は、ロシアとウクライナの話にとどまらない。
ロシアの侵略目的は「NATO諸国の東方拡大の阻止のため、ウクライナのNATO加盟阻止のため、ゼレンスキー政権を打倒し、親ロシア政権を樹立すること、プーチン大統領の野望であった大ロシア主義、事実上の旧ソ連が保持していた領土の再統合のためのウクライナ東部から南部に至る一帯を事実上支配下に置くことでした」。
その一方で、東アジアの安全保障環境も変わってきた――との認識から、日本では防衛費の大幅増が決まった。
「もう日本は戦前のような軍事大国でもなければ、戦後の経済大国でもありません。少子化と高齢化などを含めて人口減少に歯止めが掛からず、地震や風水害の多発する自然の脅威に晒され続ける中級国家です」
その体力を無視して「重厚長大な軍拡」を続ければ、ますます国家としての体力を消耗させるという。
だからこそ「平和構築に全力を挙げるべきで、軍事に貴重な人材や資金を注ぐことは愚の骨頂です」。なるほど。
では、その政策はどうやって決まるのか。これはネットからの受け売りだが、21世紀に入ると、官僚や族議員らが中心のボトムアップから、総理を頂点とする官邸のトップダウンで政策が形成されるようになったという。
森功著『官邸官僚――安倍一強を支えた側近政治』(文藝春秋、2019年)を読むと、総理を補佐する「官邸官僚」がいかに実権を握っているか、驚くばかりだ。
「霞が関の官僚たちがかつてないほど首相官邸の支配下に置かれている実態は、疑いようがない」「彼ら官邸の“住人”たちは、ときに首相や官房長官になり代わり、水面下で政策を遂行してきた」
首相秘書官や首相補佐官らは、ときに総理の「分身」「代理人」「懐刀」となり、「振付師」役も務める。
岸田首相の側近である秘書官が同性婚や性的少数者への差別的発言で更迭された。この秘書官は首相のメインスピーチライターでもあったという。彼もまた総理の懐刀であり、代理人を自認していたのかどうか。公文書改ざん以来、政治への疑問は膨らむばかりだ。
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