2023年2月23日木曜日

渓谷の踏切

                                 
 夏井川渓谷の隠居に、地元限定の回覧資料が届いていた。集落からちょっと離れたところに磐越東線の踏切がある。その踏切の廃止に関する意見交換会の開催を知らせるものだった。

 回覧資料の裏面に載った位置図と現状の画像=写真=を見て思い出した。県道に沿って磐越東線が走っている。渓谷の名勝・籠場(かごば)の滝のちょっと下流左岸に「ヤマベ沢」の滝がある。その沢沿いに県道から道が伸びる。そこにある踏切だった。

県道からいうと、ヤマベ沢は山側がコンクリート吹きつけの崖、すぐ上に磐東線のトンネルがある。谷側は展望スペースの出っ張りを含めてガードパイプで遮られている。つまりは橋だ。その下に滝がある。沢の水はその下をくぐりぬけて落下する。

もう四半世紀前になるだろうか。橋を架け替えるためにしばらく通行止めになったことがある。隠居へは下流側で車を止め、1キロほどを歩いて行き来した。道路に留め置くために、書類に車のナンバーを書いて出した記憶がある。

 震災前の平成21(2009)年1月、畑の土が凍ってやることがなくなったので、ヒマつぶしにヤマベ沢の道をさかのぼったことがある。そのときのブログの要約。

――思い立って「ミニ背戸峨廊(セドガロ)」のヤマベ沢をさかのぼることにした。籠場の滝の先、夏井川渓谷の左岸、磐越東線を越えて沢が続く。夏井川の支流だ。前に探索して、ごみに汚されていない水環境に清冽なものを感じた。

午前10時をとうにすぎた時間である。線路を越えたら、昔の「木馬道(きんまみち)」に何年か前の倒木が何本もそのまま残っていた。おおかたは赤松だ。

対岸へ渡るのに鉄骨で足場が組まれているところまで行った。この「鉄骨橋」を渡りながら写真を撮り、「今日はここまで」と引き返す。

横に尾根を2つ越えれば「背戸峨廊」だが、整備されたそちらは入渓すれば一周4時間がかりのコース。こちらは「木馬道」が放棄された結果、草木が繁茂して道が消え、すぐ行き止まりになる。

ほんとうはミソサザイのさえずりを聴きたくて入ったのだが、それは後日にしよう。というわけで沢の道を戻ると、倒木の上を小動物が渡って消えた。リスだ。久しぶりに夏井川渓谷で四つ足の小動物を目撃した。ヤマベ沢に踏み込んだかいがあった、というものだ――。

それから14年がたつ。回覧資料の画像を見ると、道をふさぐ倒木の数が増えている。山の荒廃がさらに進んでいるようだった。

とはいえ、踏切の奥の山には持ち主がいる。回覧資料には「土地所有者を把握するのに大変苦慮しております」とあった。

ふだんは忘れられた踏切だが、利用者はゼロではないだろう。たとえば、渓流釣り、山菜・キノコ採り、動植物調査……。私自身、部外者ながら、かつてあった道が埋もれていくのを、つい悩ましく考えてしまう。

0 件のコメント: