2023年2月21日火曜日

山の怪異現象

        
 図書館の新着図書コーナーに田中康弘著『山怪 朱(さんかい しゅ)――山人の語る不思議な話』(山と渓谷社、2023年)=写真右=があった。山の怪異現象がつづられている。キツネ憑(つ)きの話も載っていた。

 もう15年ほど前になる。哲学者の内山節さんが『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』(講談社現代新書)=写真左=を出した。この本を読んで、昭和40(1965)年ごろを境に、キツネにだまされたという話が消えたことを知った。

 そのことを思い出して、とにかく借りて読むことにした。著者はフリーのカメラマンで、農林水産業の現場、特にマタギの狩猟に関する取材を数多く手がけている。『山怪 朱』は『山怪』シリーズの4冊目の本だという。

 山の怪異とは、たとえば「謎の光や音、奇妙な生物や正体不明の何か」といったもので、「山人たちはそれらに翻弄され、また面白がり、時に恐怖で硬直しつつもまた山へ向かう」たくましさを持っている。

 毎週日曜日、夏井川渓谷の隠居で過ごす。現役のころは土曜日に泊まった。週末一泊二日の滞在だった。

夜の渓谷は、昼とはまた違った様子を見せる。深い闇。星が近い。奇妙な鳴き声。たとえば、キョキョキョキョキョ……。ヨタカだと知るまでは、音がするたびに背筋がひんやりした。

夜間、車で走っていたとき、山側から谷へと滑空するムササビを見たことがある。真夜中、隠居の庭木に取り付いて「ギャッ」とか「ギュッ」とか発したのはムササビだったか。

怪異とはいわないまでも、突然、渓谷が大音響に包まれたことがある。ジェット戦闘機が超低空飛行で進入してきたか――そう思わせるような音だった。対岸の森からほこりのようなものが上がった。落石だった。

そんな経験もあるので、山の怪異現象には興味がある。マツタケを採る人は、朝には森から帰ってくる。私はシロを持たないのでそんなことはしない。おそらく、マツタケ採りの達人は闇の中で奇妙な音や光と遭遇した経験があるにちがいない。

大きな倒木にツキヨタケが発生していた。しかし、夜、それが光るのを見に行こうとは思わなかった。イノシシやタヌキ、ハクビシンたちが夜な夜な動き回る。想定外の出会いに震え上がらないとも限らないからだった。

『山怪 朱』で奥会津の分校の先生だった人が同僚の体験談を語っている。バイクのカブでふもとの集落へ買い出しに行った帰り、暗くなった山道の前方を光がいくつも連なって動いていた。「キツネの嫁入り」を見たと喜んだ。ところが、宿舎に着くと、荷台から食料が消えていた。同僚はキツネにやられたと思ったそうだ。

おそらく昭和40年以前の話だろう。私が子どものころは、阿武隈の、いやどこの里や山里でも、大人が真顔でキツネにだまされた話をしていた。

そのころの記憶。「あれは何の声?」「キツネ」。山中の一軒家である母方の祖母の家に泊まった晩、向かい山から聞こえてくるキツネの鳴き声に、だまされたらどうしよう、と縮み上がったものだった。

1 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

お世話になっております。
テレビ番組の制作をしております、
株式会社ビーダッシュの飯室と申します。

度々連絡をお送りしてしまい申し訳ございません。
以前コメントさせていただいた通り、
3月2日(木)放送の番組で「磐城蘭土紀行」様の2016年7月15日の記事に掲載されております、
鳥の古巣を使用したいと考えております。
放送日の都合上、使用可否について今週中にご回答頂けますと大変ありがたくご連絡をいたしました。
(iimuro@b-dash.jpへのメールか、070-1367-0626へお電話を頂戴できますと幸いです)

手前勝手な都合で恐縮ではございますが、
ご検討の程何卒よろしくお願い致します。