カミサンの同級生から電話がかかってきた。たまたま私が出た。私への電話だった。「夫がかぶっていた帽子があるの。よかったら使って」。つまりは形見分けだ。 「喜んで。行くときは電話します」
ご主人とは知らない仲ではない。晩秋に共通の友人である画家峰丘の個展が開かれる。前はオープニングパーティーがにぎやかに行われた。
そこへご主人はいつも、背広にネクタイ姿で現れた。頭にはお気に入りの中折れ帽。個展初日は「ハレの日」と決めていたのだろう。ヒトコトでいえばダンディー。これを若いときから貫いた。
去年(2022年)の師走、ご主人が亡くなった。「葬儀場にはあの写真が飾られているに違いない」。そのとおりだった。
「あの写真」とは、いわき市が発行した「紙のいごく 10」の「シニアポートレート2020」のことだ。ご主人と奥さんが載っている。プロのカメラマンの平間至さんが撮影した。そのときのブログを要約して再掲する。
――シニアポートレートには、奥さんとのカップル写真と単独写真が載っている。帽子も背広もシャツもネクタイも違う。いかにもダンディーなご主人らしい選択だ。
ご主人は自動車鈑金の工場を経営している。私が若いころは、木造の工場の大看板に目が吸い寄せられたものだ。建物は交差点の角地にある。その角の中央でマリリン・モンローがほほえんでいた。衝撃的な看板だった。
ご主人から、新聞記者が主役のアメリカ映画(ビデオ)をもらったこともある(どうも年のせいでタイトルが思い出せない)。
シニアポートレートには、息子さんの奥さんが2人に代わって応募したという。ご主人の「ギョロ目」には力がこもっている。アメリカの映画と音楽を愛してきた人らしい雰囲気が出ている。「遺影」にも使える。それを本人に言えば、「イエー!」と応じるにちがいない――。
先日、カミサンと一緒に自宅を訪ねて、帽子とベルト、コートを譲り受けた。ネクタイはすべてストライプで何十本もある。これはもうほとんど使わないので遠慮した。
帽子は①黒いパナマ帽(夏用=イタリア製)②茶色い中折れ帽(つばが狭い)③黒い中折れ帽(つばが少し広い=ニューヨーク「ノックス」とある)④つばがあって黒く硬い帽子(サンフランシスコ「ウィンフィールドカバー」とある)――の四つだ=写真。
いちおうネットで形状やメーカー名を確かめる。驚いたのは「ノックス」だ。リンカーンも、ロックフェラーも「ノックス」の帽子を愛用した。創業は南北戦争時代の1838年。「アメリカ最古のブランド」の一つだとか。
つまりは、それなりに高級な帽子ということになる? ご主人の美意識は背広、ズボン、シャツその他、身に付けるものすべてに及んでいる。あらためておしゃれを楽しんだ人だったことを知る。
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