台風19号から2カ月。水害ごみそのものは暮らしの場から一掃されつつある。が、被災者の心は時間の経過とともに変化する。愛着のあった家具や食器、衣類、小物、本……。人によってはそれらを災害ごみとして出してしまった後悔、喪失感にさいなまれているのではないか。肉親が亡くなった、転居を余儀なくされた、知っている隣人がいない、といったことが重なれば、なおさら心は揺らぐ。
東日本大震災直後から5年間、シャプラニール=市民による海外協力の会が、いわきで津波被災者・原発避難者と市民のための交流スペース「ぶらっと」を開設・運営した。運営2年目の初夏、スタッフやボランティアが被災者や避難者の心の変化に対応しようと、いわき明星大(当時)の心理相談センターで勉強会を開いた。(今度の水害でそれを思い出した)
臨床心理士でもあるK教授が「災害支援者のための傾聴技法」と題して、遠慮のない友達同士のやりとりではなく、被災者と支援者としてのかかわり方を具体的に伝授した。
そのときのメモ(ブログ)――。傾聴のポイントは①かかわり行動②はげまし・言いかえ技法③質問技法、の三つ。①は話し手の話題についていく、など。②はあいづち・うなずき、など。③は「調子はどうですか」といったあたりから始める、など。
なぜ傾聴が必要なのか。「取り残された」「忘れられている」「独りきりだ」。そういう思いにさせないのが目的と言ってよい。言い換えれば、「一緒にいてくれている」と思ってもらえるかどうか。つまり、寄り添うこと・共感すること、それに尽きる。
床上浸水が相次いだ今度の台風でも、「寄り添う」という基本は同じだろう。傾聴の精神をベースにしつつ、被災者の心の変化にも目を向けないと、人間関係に亀裂が生じかねない――。そんな思いから、「災害時地域精神保健医療活動のガイドライン」(災害時における心理的な反応)をネットで見つけ、解説を読んでみた。
<悲嘆、喪失、怒り、罪責>の項では、「次第に死傷や家財の喪失、将来への不安などが現実的な問題として考えられるようになる。当初の茫然自失や気持ちの高ぶりが収まった後、深刻な喪失感、悲哀感を感じることがある」「自分がそのような運命に陥ったことへの憤りが、援助者や周囲の者への怒りとなることもある」。
<社会・生活ストレス>の項では、「これは新しい生活環境によるストレスである。具体的には、種々の心身の不調、不定愁訴、不眠、苛立ちなどが増加する」。
ガイドラインに当てはめると、こうなるだろうか。喪失感や憤り、不眠などの心身の変化が、支援者への怒りとなってあらわれる。たとえば、本人の判断・指示で災害ごみの搬出を手伝ったのに「持ち去った」と逆恨みを買う。あとに残るのはわだかまり、とまどい、不信感。
今、こうした状況に直面している被災者・支援者がいる、という認識が必要になってきたようだ。
今、こうした状況に直面している被災者・支援者がいる、という認識が必要になってきたようだ。
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