2019年12月18日水曜日

台風19号㊵セドガロの子ども

 夏井川渓谷は、今も大型・中型車が通行できない。いわき市小川町・牛小川の元いわや旅館前と同市川前町川前の直売所「山の食。川前屋」跡の前に、大きなフレコンバッグで“関所”がもうけられている。バッグの側面がこすれて破け、砂がこぼれているところをみると、迷い込んだ大型車ないし中型車がそのまま強行突破を図ったらしい。
 渓谷では、夏井川に沿って県道小野四倉線とJR磐越東線が走る。線路はときに川をまたいで県道と交差する。台風19号の影響で、磐東線はいわき―小野新町間がストップした。再開したのは1カ月余りあとの11月16日。県道も一時、通行止めになったが、オウンリスク(自己責任)で隠居のある牛小川へ行き来した。

12月最初の日曜日(1日)、台風19号のあと、初めて牛小川から田村郡小野町まで県道を駆け上がった。川も道路もあちこちで傷んでいた。

「山の食。川前屋」跡を過ぎ、「関の沢踏切」を渡って200メートルほど進むと、山側にガードレール代わりのパイプがあった。谷側、線路との境界にはベージュ色のフレコンバッグが並んでいる。

 山側を見ると、ダイダラボッチがマサカリを振り下ろしたように、急峻な沢がむき出しになっている=写真上1。そのときはそのまま通り過ぎたが、「雨が降れば滝になる。降らなくてもチロチロ水が流れ落ちている。セドガロ(背戸峨廊)の子どもだ。何万年かあとには第二のセドガロになるのではないか」。そう思ったら、気になってしかたがない。

きのう(12月17日)、日曜日に行けなかった代わりに隠居へ出かけた。まずは隠居を通り越して「セドガロの子ども」を見に行く。沢の底部には、とんがった石がごろごろしている。木や草はちょっと上の斜面にしか生えていない。

ストリートビューで台風以前の姿を確かめた。「関の沢踏切」を渡ると、崖に落石防止用のワイヤネットが張られている。切れ目には木々が茂り、紅白の花らしいものが見える。線路と道路の境には、そこだけ白いガードレール。この木々とガードレールが消えたのだ。ということは、道路と線路の下に排水管があって、沢の水を逃がしているのだろうか。
台風19号のビフォー・アフターでいうなら、この木々もガードレールも、土石流によって線路にまではじきとばされた。それで、県道も磐東線も一時止まった、ということらしい。実際、土砂が線路の石を覆っていた=写真上2。

自然と人間の関係でいうと、川からあふれた水は人間の生命と財産を脅かすので「水害」になる。しかし、無人島などでは自然と自然の関係にとどまるので、「水害」ではなく「洪水」、自然の営みの一コマでしかない。

自然史的な現象として見ると、土石流が過ぎた沢は、ピカピカの、できたての野性そのもの、「セドガロの子ども」だ。台風19号はそれだけ激烈だった、ということでもある。

この台風のあと、釣りをする知人やオフロードバイクに乗る知人と話す機会があった。2人とも、それぞれの場所で見た水の力(浸食・運搬・堆積)のすごさに驚いていた。地球温暖化で海水温が上昇する。それが、今までにない大雨をもたらす。私たちが暮らしを営んでいる大地が、これからたびたびピカピカの野性を取り戻す、なんてことになっては困る、ということで一致した。

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