折付さんは、同社が発行している月刊「日本古書通信」の編集者だ。東日本大震災が発生すると、ふるさと(福島県棚倉町)への帰省を兼ねて被災地の古本屋を訪ねた。以後、東北の古本屋を巡る旅を重ねる。
『東北の古本屋』は二本立てだ。前半は「東北の古本屋案内」、後半は「東日本大震災と古本屋」で、「日本古書通信」に連載した震災ルポ記事が母体になっている。
折付さんは平成24(2012)年3月、いわきの若い古書店主に伴われてわが家へやって来た。書物の森をさまよっている人間の一人として、古本屋の枠外でインタビューを受けた。(そのときは、バイクで現れたのではなかったか)
新聞でいえば連載記事とコラムをミックスしたような拙ブログの“震災記”を基に、震災からの1年を振り返った。記憶は、いつかは風化する。そのときそのときの思い、見たこと・聞いたこと・感じたことを書きとめておかないと、あとで振り返ったときにわからなくなってしまう。つらいこともいつかは青空になってしまう――そんなことも話した。
それが、「日本古書通信」の2012年5月号、<震災後1年レポート――福島、宮城の古書店界(上)>のなかに挿入された。
「あとがき」に、「『東北の古本屋案内』に加え、これまでの取材の概略をまとめて収録したのは、古本屋さんの証言を記録として残したかったからでもある。『記憶は風化するので記録に残すこと』という吉田氏の言葉も胸にあった」と書き留めてくれた。こちらの言葉が届いた、それだけでインタビューを受けたかいがあったと、うれしくなった。
贈呈本の添え書きにも引用していた。「『記憶は風化するから記録として残さねば』とのお言葉はずっと胸にあります。出版不況で苦しい中、震災・津波・原発事故、それに伴う風評被害を乗り越えがんばっている古本屋さん方への私にできる応援歌です」
「東北の古本屋」連載が終わりに近づいたころ、彼女のご主人が発症、1年前の11月に亡くなった。あとがきを読みながら、いわきの俳人志摩みどりさんの句「花すすき誰も悲しみもち笑顔」が浮かんだ。『東北の古本屋』もまた悲しみから生まれた希望の書なのだと知る。
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