2019年12月30日月曜日

イノシシとノネズミ

 イノシシの破壊力にあらためて仰天――。今年(2019年)最後の日曜日(12月29日)は快晴、無風。「正月様」を飾りに、夏井川渓谷の隠居へ出かけた。
  災害時外国籍住民等支援ボランティア研修会(1日)、カミサンの実家のもちつき手伝い(15日)、孫のクリスマスプレゼント買い(22日)と続いて、師走の日曜日に隠居へ行ってゆったりした気分で過ごすのは8日以来、3週間ぶりだった(平日の17日、川前まで写真を撮りに行った帰りに隠居へ寄ったが、すぐ離れた)。

 隠居に着いてすぐ庭を見たカミサンが苦笑しながらいう。「またイノシシが……」。庭のラッセル痕が半月前より広がっていた。シダレザクラの木の下は、前は疊1枚分くらいだったが、3枚くらいに拡大している。しかも、掘り返したあとが深い。

 菜園に生ごみを埋め、隠居で本を読み、昼めしを食べて一休みをしてから、周辺を歩いてみた。

 隠居の隣は水力発電所の社宅跡だ。駐車場を兼ねた広場になっている。谷の方からみると、吊り橋と同じ高さで最初の広場があり、そこから石垣と盛り土でがっちり固めた上部に、社宅跡が2段になって広がっている。

下の社宅跡の南東隅、隠居との境に大きなモミの木がそびえている。その根元から下の土手が、およそ幅3メートル、長さ20メートルにわたってほじくり返されていた=写真上。前は土手も広場も草で覆われていた。がっちり土の流出を抑えていた草の根がどこにもない。雨が降ればむきだしの土砂が流れ出す。

ここまでやるのはイノシシしかいない。しかも1頭や2頭ではない、群れをなして、地中にひそむミミズなんかを狙って斜面をラッセルしたのではないか。わが隠居の庭のラッセルはこれに比べたら、月とスッポン、ブルドーザーと鍬、くらいにかわいい。それほど激しく土手がほじくり返されている。

街にいるかぎりは、人間と人間の関係を規定するルールやマナーに覆われて、“カオス”は見えない。しかし、人間と自然の関係がむきだしになる渓谷では、あちこちに“カオス”的状況が発生する。先の台風19号での小規模土石流、道路冠水、護岸損壊などがいい例だ。生きもののふるまいも、ときどき“カオス”になる。イノシシの破壊力、その際限のなさ――に言葉を失った。

あとでカミサンが石垣の下の広場で黒い塊を見つけた。「イノシシの糞(ふん)?」というので、確かめに行くとそうだった=写真下。前に対岸の森の中で見たときには、脱糞したばかりだったのか、黒い碁石をやわらかくして重ねたような感じだったが、こちらの“碁石”は乾いてひびが入っていた。少し時間がたっているようだ。
 それからの連想――。イノシシたちは対岸の山から、水力発電所のつり橋を渡ってこちらへやって来た。モミの木の下で地面をほじくり返しているうちに、若い1頭か2頭がわが隠居へ越境して、少しラッセルした。それをまた別の日にもやった。帰りには一番下の広場で、ゆうゆうと脱糞して。

ついでにいうと、カミサンが「イノシシが……」といったあと、隠居の玄関を開けて中に入ると、上がりかまちにノネズミの黒い糞がこびりついていた。十二支でいえば、今年(2019年)は亥(い=イノシシ)、来年は子(ね=ネズミ)。だからどうなんだ、といわれたら、そうですね、というしかないが、あらためて年の瀬と、来年、年男だという自覚だけは深まった。

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