そもそもサンタクロ―スって何者?――そう思って調べたわけではない。が、欧州のキノコ食文化を知りたくて本をあさっていたら、堀博美『ベニテングタケの話』(ヤマケイ新書)にこんな記述があった。ベニテングタケは食べると幻覚症状などを起こす毒キノコだが、「幸福のキノコ」としても受容されている。
まずは一般的な例。「シベリアには数多くのベニテングタケにまつわる神話がある。極寒の地で、シラカバなどの木の周りにベニテングタケがよく生えることと関わりがあるが、実際に、そのベニテングタケを食する文化があったらしい。(略)極寒の地で、酒を醸すことが出来なかったので、自然に生えてきて、食べると酩酊をもたらすベニテングタケが好まれたらしい」。ウォツカ代わりだ。
キリスト教の世界では――。「サンタクロースの伝承にもベニテングタケが関わっているのではないかとする説がある。サンタクロースの服が赤と白に彩られているというのは、ベニテングタケの傘といぼの色をもとにしたものではないか、というのだ」
このあとにこう続く。コカ・コーラ社の宣伝で紅白になったという俗説がある。しかし、それ以前から紅白のサンタが広く知られていた。ドイツではクリスマスの飾りつけにベニテングタケのグッズが欠かせない。ベニテングタケをかたどったお菓子を食べる地域もある(以下略)。
ベニテングタケは、ノルウェーでもクリスマス飾りとして不動の地位を確立している、という(ロン・リット・ウーン/枇谷玲子・中村冬美訳『きのこのなぐさめ』みすず書房)。
11月末の「チコちゃんに叱られる!」で、「クリスマスプレゼントを靴下に入れるのはなぜ」をやっていた。答えは「(聖ニコラウスが貧しい家庭に投げ入れた)金貨が干してある靴下に入ったから」=写真。
聖ニコラウスは1700年前、小アジアでキリスト教の司教をしていた人物。サンタクロースという名称も、オランダのシントゥ・ニコラウスが変化したものだという。チコちゃんのサンタクロースはしかし、ここまで。「サンタクロースの服が赤いのはなぜ」まではやってくれなかった。
フィンランドにサンタクロースの手伝いをする妖精がいる。サンタと同じように白く長いひげを生やしている。
目莞(めい)ゆみ『フィンランドという生き方』(フィルムアート社)には、「妖精たちは、ヒゲのようなナアヴァを紡いで布を織り、自分たちの服を作る。ナアヴァとは、トウヒに生える灰緑色(かいりょくしょく)の苔で、樹木の幹のあちこちに長い髪の毛のように生えている」。ヒゲ苔というそうだ。サンタクロースの白く長いひげと関連はないのかどうか。
ベニテングタケはシラカバなどと共生する。シラカバの自生しないいわきでは、ベニテングタケは発生しないといわれている。が、いわきで発刊された奈良俊彦『阿武隈のきのこ』と、小川勇勝『野生のきのこ――22年間の山歩きで探し当てたきのこの生息地と写真撮影記録』改訂版には、いわきのベニテングタケの記録が載る。
「いわき地方には発生する茸(きのこ)ではないのではないかと私なりに考えたことがあったが、(略)秋、歩き慣れたブナの落葉樹林の中を探していると、幼菌と成菌を合わせて4本の茸が発生していたのを見つけた」(小川さん)
ベニテングタケの文献を求めて書物の森を巡っているうちに、“キノコ目”でサンタクロースをながめると、ベニテングタケに見えるようになってきた。なにはともあれ、いわきで本物のベニテングタケに出合いたいものである。
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