2020年2月5日水曜日

映画「ガラスのうさぎ」下・<著者インタビュー>

映画「ガラスのうさぎ」に先駆け、著者の高木敏子さんが動画であいさつした。映画のあとには、著者のインタビュー映像が流れた=写真。
平和を希求する著者の生の声を記録したこのオリジナル動画は、児童文学作品「ガラスのうさぎ」と作者・高木敏子さんを研究するうえで貴重な資料になる――オールドメディア(新聞)でメシを食ってきた人間には、最初にそんな感想がわいた。

昨年(2019年)11月、いわきロケ映画祭実行委員会の緑川健代表ほか1人が、高木さんを訪ねてインタビューした。それに先立ち、緑川代表は7月、原作本『ガラスのうさぎ』(金の星社)を携え、主人公の父親が機銃掃射で亡くなった神奈川県二宮町を訪ねて、ゆかりの地を巡った。

そういう下準備を重ねてのインタビューだった。テレビだと、インタビュアーの記者とカメラマン、ほかに音声、照明も、となるのだろうが、同実行委員会にはそんな余裕はない。スタッフが足りないところはデジタル機器と技術で補った。

プロでも何でもない、一市民が高木さんに手紙を出し、快諾を得て、インタビューに出向く。高木さんもまた、自分のことや家族のこと、「勿来のおばさん」の思い出、いわき市民へのメッセージを、心を込めて語る。緑川代表と高木さんの間には、母と子が語り合うような信頼感というか、和やかな空気が漂っていた。高木さんの、ときにお茶目な表情からもそれがうかがえた。

インタビューは、話があっちに飛んだり、こっちに転がったりして、長時間に及んだという。そのなかから、原作『ガラスのうさぎ』に登場する親切な「勿来のおばさん」のエピソードなどに絞って編集し、理解を深められるよう、ところどころ字幕を入れて関連資料も添え、15分ほどの「オリジナル作品」に仕上げた。

インターネットの時代になったからこその、新聞・テレビとは別の、市民による「もう一つのジャーナリズム」の実践だ。

 東日本大震災の直前、林香里・現東大大学院教授が『<オンナ・コドモ>のジャーナリズム――ケアの倫理とともに』(岩波書店、2011年)という本を出した。タイトルについて、こう説明している。

「マスメディア・ジャーナリズムとは異なった、より局地的で、かつ人間の関係性を基本に相対的な視点からつくられていくような“コミュニケーション的ジャーナリズム”を本書では『オンナ・コドモのジャーナリズム』と名づけ」る。

「戦争を起こそうとするのも人の心、戦争を起こさせないようにするのも人の心」。マスメディアであれば不特定多数への呼びかけが、オリジナル動画では映画「ガラスのうさぎ」を見に来た個別・具体の観客への呼びかけになった。これこそが「より局地的で、かつ人間の関係性を基本にした、もう一つのジャーナリズム」と、体験的マスコミ論を語っている人間には思われた。

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