2020年2月7日金曜日

「音読み言葉」と「訓読み言葉」

 質問「幅広く募っている、募集していることをいつから知っていたのか」。答弁「私は広く募っているという認識だった。募集しているという認識ではなかった」。ツイッターだかフェイスブックだかで国会のやりとりを知って、即座に思い浮かんだフレーズがある。「音読み言葉より訓読み言葉を」――。
 東日本大震災の年から足かけ7年、学生を相手にマスコミやメディア史などの話をした。最初の3年間は新聞の文章の書き方にも触れた。新聞は「伝達」が目的。文章は正確(コレクト)・簡潔(コンサイス)・明快(クリアー)の<3C>が基本。それを「体験的文章術7カ条」=写真(当時のレジュメのデータ)=にまとめて、逐一解説した。

「募る」と「募集する」は「第6条 音読み言葉より訓読み言葉を」に関係する。同じ意味だが、「募集する」は音読み言葉=漢語的表現、「募る」は訓読み言葉=和語的表現だ。<3C>の基本でいえば、記者が使うのは「募集する」ではなく「募る」になる。文章のリズムから「募集する」方がしっくりくるときもあるが、記者の思想や主観が入る1面コラムなどは「募る」の方が断然いい。

「第3条 読点(とうてん)は息継ぎを基本に」には、「誤読の恐れがある場合にも『、』を入れる」を必ず付け加えた(文章は黙読してリズムを整える。その習慣から生まれた経験則が「息継ぎ」)。

後輩のフェイスブックからの無断引用で申し訳ないのだが、最近、こんな例があった。「歯医者さんの後妻からの指令で……」。ん?ん! 文脈からすると「歯医者さんのあと妻の指令で……」なのだが、「歯医者さんの後妻(ごさい)の指令で……」と誤読されかねない。それを防ぐには「歯医者さんの後、妻の指令で……」と、「後」と「妻」の間に「、」が必要になる。

場所や時間を指す「……にて」や「……より」といった文語的表現も、このごろ目に付く。なぜか若い人がよく使う。口語的表現が基本の新聞には、さすがに「……にて」はない。丁寧に、という思いがはたらくのだろうが、私がデスクなら「……にて」は「……で」に、「……より」は「……から」に直す。

「名文より明文」を、である。国会の問答は、自分のレジュメを読み返し、あらためて「わかりやすい文章」について考えるいい機会になった。やはり、「口語の時代はさむい」(荒川洋治)? けさは台所の水道管が半分凍っていた。

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