2020年2月26日水曜日

15歳が聞いて書いた戦争

2月のあたまに、いわきロケ映画祭実行委員会がいわきPITで「ガラスのうさぎ」の上映会を開いた。映画のあとのトークショーで、原作に出てくる「勿来のおばさん」と平空襲について話した。それ以来、時折、東京大空襲関係の本を読んでいる。
前に紹介したが、ロナルド・シェイファー/深田民生訳の新装版『アメリカの日本空襲にモラルはあったか 戦略爆撃の道義的問題』(草思社)には、焼夷弾による無差別攻撃が行われるようになった経緯が記されている。戦争を早く終わらせるため――殺される側からすれば、なんとも複雑な思いがぬぐえない。

焼夷弾の攻撃にさらされた市民の側の記録も読んだ。女子学院(東京・千代田区)は中学3年生を対象に、「戦争体験聞き書き学習」を夏休みの課題にしている。その聞き書き作品から東京大空襲に関する16編を選んで刊行されたのが、『15歳が聞いた東京大空襲――女子学院中学生が受け継ぐ戦争体験』(高文研)=写真。出版された年は2005年、東京大空襲・終戦から60年の節目の年だ。

読み始めてすぐ、「おやっ」と思った。聞き書きの「レポート」を想像していたのが、ちゃんとした「物語」になっている。小説と変わらない構成だ。よほどていねいに聞きとり、調べたうえで文学的な工夫を凝らさないと、人に読んでもらえる「作品」にはならない。

ウィキペディアで、レベルの高い中高一貫校であることを知って納得した。福島が初任地のNHKアナウンサー合原明子さん、おはよう日本の和久田真由子さん、フリーアナウンサーの膳場貴子、馬場典子さんらも聞き書き学習の経験者だろう。

2004年には『15歳が受け継ぐ平和のバトン――祖父母に聞いた235の戦争体験』(高文研)を出し、戦後70年の2015年にも『戦争しない国が好き!――女子学院中学生が綴った日本の戦争22話』(高文研)を出した(総合図書館にあるので、近く借りて読むつもりだ)

同じ私立の灘中では、3年間、伝説の国語教師橋本武が中勘助の「銀の匙」を教科書にして国語の授業をした。作品に出てくる語彙や事件などをキーワードに総合学習を進め、調べる力、考える力などを養う――それと響きあうような夏休みの調べ学習だ。

小説風の文章には臨場感がある。たとえば、すぐそばに落ちた焼夷弾の描写。「ひときわ大きくザーッという音がしたかと思うと、啓子たちが逃げていく道に降ってきた。熱い油脂が頬にかかった。あわててそれをぬぐうと、おぶっている妹の頭に火の粉が飛んだ。髪がちりちりと焼けているのに気づいた。さっきから泣いていたのはそのせいだったのだ」

7歳の少女ちさとの体験。「ちさとは自分の家を早く見てみたかった。立ち上がったが、足の痛みに驚いて足の裏を見た。裸足で走ったために、足の裏をやけどしてしまったことを思い出した。歩き出そうとしたが、地面は熱した鉄のように熱かった」

雨あられと降ってくる焼夷弾の火の海のなかで、人々は逃げまどい、倒れ、傷ついた。燃える髪の毛、地面の熱さ……。個別・具体の描写が戦争のむごさをリアルに伝える。

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