渓流には大きな石がゴロゴロしている。巨岩といえども不動・不変ではない。大水で流され、ぶつかり、形を変えて、そこにある――そういうふうにとらえた方がいいらしい。それだけ水の力は強大だ。
地形を研究した故里見庫男さん(いわき地域学會初代代表幹事)によると、「阿武隈高地は中生代白亜紀後期(8000万年前)に、山地全体が風化作用や河川の浸食などの準平原化作用によってほとんど平坦になってしまった。その後、第三紀における汎世界的な地殻変動によって、4回にわたって間欠的に隆起したことが知られている」(同地域学會図書16『あぶくま紀行』=1994年刊=所収「残丘」)
阿武隈高地の東側、いわき市などの浜通りの河川は、この複数回の隆起による急流で浸食が進み、V字谷が形成された。夏井川の本流や支流(たとえば江田川、別名・背戸峨廊=セドガロ)に滝が多いのはそのため。
「前は二段になってたなぁ」。別の人間がいう。いわき総合図書館編『絵はがきの中の「いわき」』(2009年)の巻頭に、昭和30年代(1955~64年)の籠場の滝の彩色絵はがきが収められている=写真下2(部分拡大)。確かに、滝口から下にも岩があるためか、瀑布がすべるように伸びている。上の写真(2016年2月撮影)ではそれが弱い。水の落ちる角度が鋭くなっている。
渓谷の小集落に住み、毎日のように籠場の滝を見て通学・通勤してきた住民には、学者よりも誰よりもその変化がわかる。そこは魚止めの滝であると同時に、遊びのスポットでもあった。
一世代前の古老によると――。滝を越えて上流へ向かおうとジャンプする魚がいる。それを、籠を吊るして難なく捕った。で、籠場の滝。この話を聞いてからは、平の殿様が見事な景観に籠を止めたという「伝説」は、だれかの創作にしか思えなくなった。
「夏井川がきれいになった」。これには心当たりがある。台風19号による大雨で支流の沢では小規模な土石流が多発した。その結果、沢を覆っていたヤブや土砂がきれいに流された。できたての野性そのものといっていい沢が現れた。本流も岩が磨かれて輝いているような感じを受ける。
「そのうちサケがのぼって来るようになるのでは」。地形は、いつかは消滅する。滝はそのなかでも最も短命だという。籠場の滝が消えれば、確かにサケの遡上も可能になる。
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