といっても、隠居の庭と敷地の境の小道に沿って、土手や小流れを見て回るだけだ。半径30メートルほどの小さな世界。視線をできるだけ地べたに近づける。すると、今まで気づかなかった生きものたちの営みが見えてくる。
隠居の庭――。シダレザクラの樹下にカキドオシの花が咲いている=写真上1。シダレの花は満開の時期を過ぎて、風が吹くたびに花びらが舞い散る。新芽も開き始めた。花に来る虫は、と見れば、枝で黒いテントウムシがうごめいている=写真上2。あとで逆「C」形の赤い紋様を調べたら、ナミテントウらしかった。
敷地の下に広がる空き地――。水力発電所専用の車道に水たまりができていた。その先の空き地も水があふれて、一部、湿地化している。去年(2019年)の暮れ、隣地の石垣の上の土手がイノシシに掘り返された。そのとき土砂が落下したのか、石垣の下の小流れが埋まって水が行き場を失った。
車道の水たまりに大小2種類のオタマジャクシがいた=写真上3。水深はわずか1~2センチ。雨が降ったときに、どこからか流されてきたか。石垣のそばの水たまりにも種類はわからないが、カエルの卵塊があった=写真下1。
隠居の下の庭には名前のわからない木の花がある=写真下2。上の庭にはオオカマキリの卵嚢(らんのう)が落ちていた。アミガサタケもシダレの樹下をはずれたところに1個、根元に1個あった。
隠居のなかで大量に越冬したカメムシは、この春初めて自由に飛び交っていた。薫風が通りぬける屋内で、ポトリ、ポトリと畳に落ちては、すぐ立ち上がって飛び立つ。今までにない敏捷さだ。カメムシはこの日、冬ごもりを終えたのだ。
絶えず変化してやまない自然の営み――。センス・オブ・ワンダー(不思議さに目を見張る感性)に、年齢は関係ない。渓谷へやって来ると、いつもそう思う。
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