小雨が降っていたので、縁側からアカヤシオの写真を撮ったあと、傘をさして庭の木を見て回った。シダレザクラの樹下には春、アミガサタケが出る。半分立ち枯れた木(名前がわからない)の幹にはアラゲキクラゲが発生する。どちらもまだだった。
では、玄関前の庭にあるツチグリの残骸は――風に吹き飛ばされて消えていた。代わりに、目に入ったのが道路際のカエデの根元にできた白い泡のかたまり=写真上。家のそばのカエデの根元にも白い泡が噴いていた。葉はまだ展開していない。
雨が濡れた幹を筋になって流れている。小さな泡も連続して下りて来る=写真右。カエデの裸木に降った雨が枝を伝い、幹に集まり、かすかなへこみを伝って地面に泡を残し、地中に浸み込んでいく――そういう流れのようだった。
ネットで検索すると、「樹幹流」という現象らしい。文字通り、木の幹を流れる雨のことだ。しばしば木の根元に白い泡ができる、とあった。
なぜ泡を噴くのだろう。森に降り注ぐ雨は空中を浮遊しているチリやホコリを取り込む。木の枝や幹にもいろんな物質が付着している。それらが雨に溶け込み、幹を伝い、地面に浸み込む過程で、化学的・物理的な変化が起きるらしい。
たとえば、杉の周辺の土壌はかなり酸性化している。オオヤマザクラやコバノヤマハンノキなども酸性を強めるが、ブナやヤマナラシ、オニグルミなどは逆に酸性が緩和される――そんな樹幹流の分析結果もアップされていた。
東日本大震災に伴う原発事故では、場所によっては放射性物質が雨や雪に含まれて降下した。芽吹き前だった落葉樹は枝・幹に、常緑樹は枝・葉に放射性物質が付着し、雨とともに幹を伝って根元に堆積した。住宅の雨樋の排水口の線量が高くなったのと原理は同じだろう。
昔、平の里山(雑木林)で、「樹液酒場」に群がるオオムラサキやスズメバチを観察したことがある。たまたま虫たちがいないときに樹液をなめてみた。わりと冷たくて甘酸っぱかった。その連想で樹幹流も甘いのではと思ったが、どうも違うようだ。
雨の日には雨の日の“発見”がある。傘をさして森を巡ったこともあるが、今は「家(隠居)から半径10メートル」が日常になった。それでも、レイチェル・カーソンのいう「センス・オブ・ワンダー」(不思議さに目を見張る感性)を体験することはできる。
森の訪問者に草木や動物のことを解説する人を、インタープリター=自然案内人という。インタープリターまではいかずとも、雨の日、森はどうなっているのか――くらいは知っておかないと、と思った次第。
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