2020年4月29日水曜日

「熟読玩味」の時間

 図書館から借りて読む本は月に20~30冊ほど。単純に「読んで楽しむ」というより、「資料」としてパラパラやることの方が多い。いそがしい読書だ。
 あらかたは事前にホームページで確認する。出納書庫にあるものは館内の検索機でクリックし、カウンターで受け取る。新着図書は必ずチェックする。好みの本や興味をそそられる本がたまにある。

新型コロナウイルス感染防止のため、いわき市は4月18日から5月6日まで、図書館・美術館など「公共施設の原則休館」を決めた。たまたま休館3日前に3冊を借りた。返却日の迫っていた1冊と合わせて4冊=写真=が今も手元にある。

 中田豊一『援助原論』(学陽書房)、ジャック・アタリ/林宏昌訳『食の歴史』(プレジデント社)、原成吉『アメリカ現代詩入門』(勉誠出版)、地球の歩き方『シベリア』(ダイヤモンド社)――。

『援助原論』は、国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」を支援するACジャパンの公共広告に刺激されて借りた。著者の中田さんは、同じ国際NGO「シャプラニール=市民による海外協力の会」の元代表理事。シャプラのバングラデシュ駐在員時代の体験記だ。

その後、中田さんはセーブ・ザ・チルドレン事務局長に就く。東日本大震災時にはシャプラの代表理事で、国内で初の支援活動を展開したいわきへも足を運んでいる。

『アメリカ現代詩入門』は新着本だ。ロバート・フロストにアレン・ギンズバーグ、ゲーリー・スナイダーなどが入っている。ノーベル文学賞を受賞したシンガー・ソング・ライターのボブ・ディランも取り上げた。ディランが現代詩の世界で論じられるのは珍しい。

スナイダーの奥さんになった女性は日系アメリカ人の故キャロル・コウダ。キャロルにささげられた詩集『絶頂の危うさ』(原成吉訳)に、キャロルの母ジーン・コウダをうたった詩「コーヒー、市場、花」がある。

<ぼくの義理の母は/アメリカ生まれの日本人で/仲買人には手強い/頭が切れる商売人/裸足で働きながら育ったのは/サクラメント川が作るデルタの農場。/日本が好きではない。/コーヒーのマグを片手に/朝早く、窓辺にすわって//桜の花を見つめている/ジーン・コウダ/かの女に詩はいらない。>

 ジーンは、カリフォルニア州ドス・パロスで農業(稲作)を営んでいた日系二世のウイリアム・コウダと結婚し、2人の娘メアリーとキャロルをもうける。「稲作」「コウダ」とくれば、思い浮かぶのはいわき市小川町出身の「ライスキング」国府田敬三郎。私の頭のなかでは「ライスキング」を介していわきとスナイダーがつながっている。

『シベリア』は、モンゴルの北隣に位置するトゥーバ共和国の情報が欲しくて借りた。ロックミュージシャンの巻上公一さんが第1回大岡信賞を受賞したときの記事に、トゥーバの歌唱法「ホーメイ」を習得した、とあった。巻上さんとホーメイを知るには地理的な情報も――というわけで、シベリアを南から縦断して北極海へ注ぐエニセイ川の源流部に思いをはせた。

のどや舌、唇を楽器のように操り、歌う人間に引かれる。図書館から巻上さんの『声帯から極楽』(筑摩書房)を借りて読み、さらにラルフ・レイトン/大貫昌子訳『ファインマンさん最後の冒険』(岩波現代文庫)も借りて読んだ。トゥーバへの傾倒ぶりが面白かった。『シベリア』を借りたのはその余韻のようなものだ。

新着の『食の歴史』は、キノコのトリュフに関する記述を期待してのことだったが、それはたいしたことがなかった。

私は見なかったが、NHKの「緊急対談 パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望~」がネット界で評判になっている。なかでも、字幕を中心に要約されたアタリの言葉がグサッときた。

「利他主義は最善の合理的利己主義にほかなりません」。コロナ問題にあてはめると、自分が感染の脅威にさらされないためには、他人の感染を防ぐ必要がある。周りの人間が感染していなければ自分も感染しないからだ。感染症はだれでもかかる。狭い利己主義に陥って犯人捜しをしたり、感染した人間を攻撃したりするヒマはないのだ。

利他主義を生きる――。知識人の役割のひとつは、もやもやした気持ちや状況に対して、明確な言葉を与えることだろう。

それらを念頭に『食の歴史』を読むと、「植物の利他主義」に出合った。正確には植物とキノコ(マツタケでいえば、松の根とマツタケの菌糸)の「相利共生」のことだ。ちょっと単純すぎないか、という思いはあるのだが、さすがに目のつけどころが違う。

県教委はきのう(4月28日)、5月7日以降も県立学校の臨時休校を延長することを決めた。市町村立の小中学校もこれにならうはずだ。となれば、公共施設の原則休館も延長される? はからずも図書館の休館で「熟読玩味」の時間ができた。さらにこの4冊を深読みせよ、ということになるのかどうか。

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