2021年2月13日土曜日

誰もが自然に近づける権利を持つ

        
 いわき市国際交流協会の会報「ワールド・アイ」が毎月届く。今年(2021年)の2月号に、ニュージーランド出身でいわき市に住む女性(ジェーンさん)の「スウェーデン滞在記」が載った=写真。夫と2人の子どもとともに1年間、スウェーデンで過ごした。そのときの印象をつづっている。

 日本語訳を読んだ。「とても暗く、そしてとても明るい」から始まって、「スウェーデンでは、子どもたちの権利がとても大切」「男性と女性はもっと子育てを共有することができる」「誰でも自然に近づくことができる」など9項目にわたって興味深い話が続く。

 私事だが2009年9月、スウェーデンに住む同級生(2017年秋に他界)の病気見舞いを兼ねて、仲間で北欧3国を旅行した。特にスウェーデンの文化や制度には目を見張った。北欧から帰って、「高福祉高負担」社会がなぜ生まれたのかを本で勉強した。今も北欧には関心がある。興味を持ってジェーンさんの滞在記を読んだ。

 北欧の夏は「白夜」、冬は「極夜」と呼ばれる。滞在記はまず、そのことに触れる。ダークウインター(暗闇の冬)のなかでも、「冬の一番暗い時期、それは、まさにクリスマスの直前で、午後3時半に暗くなり、翌日の朝9時ごろまで明るくならない」。

日本でいう「冬至」だ。そのときが「極夜」のピークになるのは、地球の運行からして当然だろう。その日を境に、北欧でも、日本でも「一陽来復」に転じる。

夏井川渓谷の真冬の日の出・日の入りがちょうどこの時刻だ。もちろん北欧より緯度が低いので、空は明るい。すっかり青空にはなっているが、朝日がⅤ字谷の尾根から顔を出すのは午前9時前後。そして、午後3時前後にはもう尾根の向こうに沈む。

「誰でも自然に近づくことができる」では、自然享受権について書いている。「誰もが自然に近づける権利を持つというスウェーデンの法律があります。たとえば、湖に行くとき、他人の家の土地を横切ることができます。森でベリーやキノコを採って、家に持ち帰ることもできます」

自然享受権は、スウェーデン語で「アッレマンスレット」という。8年前の2013年1月、そのことについて書いているので再掲する。

                  

スウェーデンやフィンランドなどの北欧諸国には「万人権」というものがある。その土地の所有者や生態系に損害を与えないという条件つきながら、だれでも他人の土地に立ち入って自然環境を享受できる権利のことである。

一般の書物では、「万人権」というより「自然享受権」という言葉で紹介されている例が多いようである。具体的には夏のベリー摘み、秋のキノコ狩りをはじめ、ハイキングやスキー、水浴、釣り、野営などがそれに当たる。

原発事故が起こる前はいわきでも、市民は春の山菜採り、秋の木の実・キノコ狩りを楽しんできた。

ところが、放射性物質によって自然も、人間も少なからぬ影響を受けた。山菜好きや愛菌家は今も、山野に分け入り、緑の酸素を吸い、自然の恵みをいただくことができない――という精神的苦痛を強いられている。(以下略)

                  ※

自然享受権はスウェーデンに限らない。万人に共通の権利だ。いわきをはじめ、阿武隈高地の山里などでは原発事故以来、それが踏みにじられたままでいる。野生キノコの摂取・出荷制限要請が10年たつ今も続いている。

セシウム134の半減期はおよそ2年、これはとっくに過ぎた。同137は30年。半減期を迎えるまでにあと20年が必要だ。そのとき、私はたぶんこの世にいない。キノコの放射線量もどこまで下がっているのかわからない。

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