2021年2月27日土曜日

「火星の風」

                     
 生まれたときから、日本のカレンダーは月・火・水・木・金・土・日曜日の順で繰り返されている。なんでそうなのかはチコちゃんではないからわからない。

 ネットで検索したら、答えに行き着いた。1週間7日は古代バビロニアで始まった。しかし、各曜日は古代ローマでつくられた。さらに、一日を24等分して1時間ごとに五つの惑星と太陽と月とを繰り返し当てはめ、一日の最初の1時間が一日を支配するという考え方に従って、土・日・月・火・水・木・金の順番ができ、やがて週の初めが日曜日(安息日)になった。

要するに、中東・西欧の占星術や宗教の考え方が反映されて、今のようなカレンダーができあがった、ということだろう。

なぜカレンダーが気になったかというと、2月最初の「チコちゃんに叱られる」で、「火星人はタコ」説を取り上げていたからだ。火星人から太陽系、太陽系からカレンダーに連想が飛んだ。で、「火星人=タコ」の答えは「ウッカリしてウッカリしてドッキリしたから」だそうだ。

19世紀後半、イタリアの天文学者が望遠鏡で火星を観測し、表面の細かい模様を絵にして、イタリア語の「溝」を意味する「canali」と呼んだ。それをフランスの天文学者が翻訳するなかで「canal」(運河)と誤訳した。これが最初のウッカリ。

次のウッカリはアメリカの天文学者。「運河」を信じ、詳細な地図を描いて、名前まで付けた。「運河」をつくるような生命体は、火星の重力(地球の3分の1)からして頭が大きい、足は細いはず。「火星人はグロテスク」と結論づけた。

この「仮説」を前提にして、イギリスの作家、H・G・ウェルズが『宇宙戦争』を出版する。それから40年ほどたって、アメリカで『宇宙戦争』のラジオドラマが制作される。このドラマを、聴取者がいかにも実際に起きたように受け止め、大パニックになった。これがダメ押しのドッキリ、ということだった。

こうしてウッカリ・ウッカリ・ドッキリが重なって、「火星人はタコ」の姿のイメージが定着した。

実は、このブログはこれからが本題――。NASA(米航空宇宙局)の火星探査車「バーシビアランス」が火星着陸に成功した。そのときの映像が公開され、記事になった=写真。「火星に吹く風の音」も録音したという。

ネットで確認しても「火星の風の音」がどんなものかはよくわからなかった。が、それはそれでかまわない。想像さえしていなかった「火星の風」という言葉が胸に刺さった。比喩としてはかなりインパクトがある。「月の砂漠」はさておき、「水星の庭」「木星の渚」「金星の谷」「土星の雲」などと、詩的なイメージを誘発する。

NASAが特に知りたいのは「火星の風」ではなくて、水ではないだろうか――たまにしか夜空を見上げない私は、記事を読んでそう想像した。

国立科学博物館の「宇宙の質問箱」に書かれている。火星では昔、たくさんの水があり、川として流れていたらしい。その後、火山活動が終わり、重力が小さいために大気が逃げて次第に薄くなった。そのため気温も下がり、水は凍りついて火星の地下に残っている。

ついでに、もうひとつ。チコちゃんのドッキリの根拠になったラジオドラマの「大パニック」だが、メディア史研究の第一人者、佐藤卓己京都大教授の『流言のメディア史』(岩波新書、2019年)によると、実際に起きたのは電話回線のパニック程度で、そのほかの事象はすべてラジオと新聞の合作による“メディア流言”だった。つまり、ドッキリはなかった。

マスメディア研究者の間では超有名な逸話だったので、教授自身もしばらくは「大パニック」を信じていたという。

今回の「火星人はタコ」の話は、初めて「チコちゃん“も”𠮟られる」になるのではないか。ウィキペディアにも「現在では根拠のない都市伝説として否定されている」とある。

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