平の角忠(書店)さんが毎月、岩波書店のPR誌「図書」を届けてくれる。2019年2月号に、田代眞人という人が「大流行による惨劇から100年――スペイン・インフルエンザ」という題で書いていた。
今度知ったのだが、田代さんは東北大医学部を卒業し、磐城共立病院(現いわき市医療センター)で研修したあと、留学~自治医大教授~国立感染研究所インフルエンザウイルス研究センター長などを歴任したインフルエンザ研究の専門家だ。
「図書」を読んで、次のようなことをブログに引用した。100年前、インフルエンザの病原体は細菌(インフルエンザ菌)と信じられていた。しかし、山内保ら3人の日本人研究者がウイルスであることを証明した。被験者への感染実験など、現在では問題のある研究方法もあり、長く無視されていたが、最近、世界的に再評価されつつある。生存患者の多くも二次性の細菌性肺炎で死亡した。原因も予防・治療法も不明だった――。
私はそれまで、受け売りで「スペイン風邪」といってきたが、田代さんの文章を読んでからは「スペインインフルエンザ(スペイン風邪)」と書くようにしている。
ウイルスは電子顕微鏡でないと確認できない。それが開発されるのは1930年代に入ってからだ。二次感染で検出された細菌を病原体と誤認し、ワクチンが開発された。しかし、効果は判定できるようなものではなかったようだ。
となると、庶民は何に頼って日々を過ごしていたのだろうか。コレラが流行した明治時代――。「コレラに対する科学的な認識や対処法を知らない民衆の間では、様々な風説が流れた。また人びとは、非科学的な方法、例えば祈祷や呪(まじな)いによって疫病を遠ざけようとした」(長野浩典『感染症と日本人』弦書房、2020年)。
現代の常識でこれを笑うことはできない。むしろ今の医学水準であっても、新型コロナウイルスにはなかなか対処できずにいた。ようやくワクチンを開発し、投与するところまでこぎつけた。医療の限界を知りつつ、しかしなんとか感染爆発の鎮静化を願うとなれば、信仰の有無を超えて素朴に神仏に祈願する、そんな心境になっても不思議ではない。
東日本大震災が起きたときがそうだった。原発事故の収束、つまりは炉心の冷温停止状態を神仏に祈った。自分の死と直結するコロナ禍の今もそうだろう。
妖怪の「アマビエ」に「コロナ退散」の願をかける。その思いの延長線上で菓子製造業者が「アマビエどら焼き」をつくり、陶芸家が「アマビエ小皿」を焼く。
新年が明けるとすぐ、近所の立鉾鹿島神社の宮司さんがあいさつに来訪した。アマビエのお守りをいただいた=写真。紙袋に「特別に調製・祈願した御守りです。常時携行下さい。一日も早く穏やかな日常を取りもどすため、皆さん一緒に頑張りましょう」とあった。手帳のカバーのすきまに差し込んだ。
いわき民報によると、このお守りが好評で、増製することになった。民衆の祈りというか、非常時の心のありようがうかがえるエピソードだ。
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