2021年11月6日土曜日

足がグラツキ―!

        
 このごろ、立ってズボンをはくとグラつく。昔は一本足でも平気だった。散歩をやめて何年にもなる。老化も手伝って、足の筋肉が衰えた。

ズボンに足を入れて引っかかって倒れそうになったとき、ついおやじギャグが口から出た。「足がグラツキ―!」

いちおうグラツキ―という人間の顔が脳裏に浮かんでいた。アレクサンダー・グラツキ―。崩壊前のソ連で人気のあったロック歌手だ。

勤めていたいわき民報で、昭和62(1987)年6月末から平成6(1994)年9月までの7年余、週1回、「みみすのつぶやき」というタイトルでコラムを書いた。平成3(1991)年5月1日付でグラツキ―について触れている。

テレビで彼の歌を聞いた。ロシア民謡にも似た、重く大きな哀愁に感動して、レコード店へCDを買いに行った。3店目でやっと手に入れた。「ソング」が彼の代表曲らしい。生前は会えなかったが、敬愛する詩人を友と呼んでしのんでいるオリジナル曲だ。声域3オクターブ半、大地から大空へとせり上がるような歌い方に圧倒された。

CDにはほかに、「イマジン」「明日に架ける橋」などのカバーヴァージョンやアリアが入っている――といったことを書いたあとに、「ペレストロイカが運んできたソ連の歌声は、しかしロックというには暗すぎる。ソ連の絶望的な状況を思えば、彼は一層悲しく同胞を歌で励ますしかないのだろう」と締めくくっている。30年前のその年の暮れ、ソ連は崩壊した。

一本足の話に戻る。グラついたときにグラツキ―を思い出しただけではなかった。『なぜツルは一本足で眠るのか』という本の題名も思い浮かんだ。ツルだけではない、サギやハクチョウも一本足で休んだり、眠ったりする。なぜ彼らは一本足でもグラつかないのか。

まだ暑さが残る秋のある日、渡辺町の大沢隧道を見に行ったら、釜戸川に架かる橋の欄干にアオサギが止まっていた=写真。あとでデータを拡大すると、一本足で立っていた。

ハクチョウが日中、片足で眠っているところを書いた3年前のブログがある。それを要約する。

――わが生活圏の平・塩~中神谷では、11月に入ると12羽のコハクチョウが姿を見せるようになった。つがいと子ども合わせて4~5羽が一単位のようだから、3家族の群れだろうか。そのグループに誘われるように、50羽前後が川の中州や浅瀬にちらばっていた。

先着の12羽のうち、座りこんだ1羽と幼鳥2羽を除けば、9羽が一本足で昼寝をしていた。

へたりこんでいた1羽が立ち上がる。と、歩くたびに体が左に傾く。ほかの仲間が片足を翼に隠しているのに、彼(あるいは彼女)は両足のままだ。左足をけがしていて、上げられないのか。どこでけがをしたのだろう。シベリアは生まれ故郷、白夜のツンドラで? 渡りの途中のサハリン(樺太)で? 北海道のクッチャロ湖で?――

幼鳥はたまたまへたり込んでいただけだろう。ネットで検索すると、一本足で眠る幼鳥の写真もアップされている。サギやハクチョウは最初から一本足でもグラつかない構造になっているわけだ。鳥にはなれないが、なんとかその秘訣を知りたいものだ。

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