2021年11月10日水曜日

「三森富士」

                     
 四倉の同級生から米の注文を受けた。配達に来たとき、30分ほど時間をくれ、見せたいものがある――という。

 かつては「浜街道」といわれた旧道沿いに家がある。わが家も同じ旧道沿いだ。神谷の隣は草野、その隣が四倉で、彼の家までは車で10分ほどだろうか。

 仁井田川の橋のたもとの家に着くと、「見せたいもの」があるところまで案内された。堤防を歩き、常磐線の鉄橋の下をくぐり、また堤防に出た。

 目の前に同級生の家の田んぼがある。どこの田も稲刈りが終わって、ひこばえが青々としていた。今は人に頼んでいるが、子どものころは総出で田植えをした。合間に野良で食事をとった。そばの仁井田川では夏、水遊びをしたという。

 私にも同じ記憶がある。子どものころ、母親の実家の田植えについて行き、田んぼに稲苗を投げるのを手伝った。あぜでとる食事が楽しかった。夏の水浴びも川でした。山里だからプールはなかった。

仁井田川の堤防からの眺めがいい。近景・中景を刈り田が占め、その奥に二ツ箭山その他の山並みが青黒く伸びる。

同級生が子どものころから見てきた風景だ。近景~中景~遠景、そしてその上に大きく広がる青空。

右手奥に三角形の山がある。「あの三角形の山は三森山だな」「そう、それを見せたかったんだ。四倉から見える『富士山』」。そうか、そうか。同級生はずいぶん前から三森山(656メートル=大久)に富士山の姿を重ねてきたのだ。

私は中通りの阿武隈高地で生まれた。隣町に標高718メートルの「田村富士」(片曽根山=田村市船引町)がある。時折、富士山に似た美しい山容を眺めて育った。「〇×富士」というと、真っ先にこの「田村富士」を思い出す。

いわき市内では、「絹谷富士」(平)「滝富士」(遠野)「おふんちゃん」(小名浜)。そして、今回の「三森富士」。

県道小名浜四倉線を藤間(平)から下大越(同)へ向かっていると、富士山に似た三角形の山が道路の奥に見えてくる。これも「三森富士」。ここからの「三森富士」は独立峰のようで、より富士山の姿に近い。

三森山は大久川の源流部にある。川の下流、久之浜からは山頂が三つの峰に分かれて見える。だから、三つ森。

しかし、久之浜の南方、平の郊外からは頂点がやや平坦な三角形に見える=写真(六十枚橋から)。同級生の住むところでも形は同じだ。三つの峰が、四倉ではやや左下がりに、平では三つではなく左下がりの二つに見える。

 県道小名浜四倉線から見える三森山を、地理院地図で確かめた。等高線をたどると、藤間~下大越~下神谷(平)~山田古湊(四倉)まではおおむね平地の水田、その先に玉山(同)と地続きの三森山がそびえる。遮るものがない。私はこの場所からの「三森富士」が好きだ。

 平成7(1995)年にいわき市が『いわき百景』を出した。その選定にかかわった記憶がある。個人が自分の好きないわきの風景を発見することでよりいっそう郷土愛が深まる――そんな期待が膨らんだ。その延長線上でいうと、『私選 いわきの富嶽百景』があってもいい。

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