2021年11月8日月曜日

ささやかな楽しみ

                     
 11月に入ったある日の食卓――。ごはんは「むかご飯」。味噌汁は「ねぎじゃが」。おかずの一つは「しその実麹(こうじ)」。

 むかごは、わが家の庭の生け垣に絡みついたヤマノイモから採った。1回目は径30センチほどのざるを受け皿にして、つるをゆすった。バラバラ落ちた。地面にもたくさん散らばった。

 2回目はこうもり傘を開いてひっくり返し、それを受け皿にした。地面に落とすことなく、むかごを回収できた。

 「ねぎじゃが」のネギは、夏井川渓谷の隠居の畑で栽培している三春ネギ=写真。11月になったので収穫を始めた。最初は「おふくろの味」のネギとジャガイモの味噌汁――そう決めていたが、ジャガイモは加熱しても硬かった。2回目はメークイン。ほどよくほぐれて、三春ネギのやわらかさとよく合った。

 シソの実は隠居の畑に勝手に出てくる「ふっつぇシソ」からしごき採った。これにカミサンが米麹をまぜ、醤油で味付けをした。

 むかご、ネギ、シソの実。いずれも時期がくると庭や畑で収穫できる食材だから、カネはかからない。毎日、あるいは毎食ではあきるが、一、二食なら食卓に彩りが生まれる。ささやかな楽しみ、といってよい。

 山里の直売所での買い物も、ささやかな楽しみのひとつだ。きのう(11月7日)は青空の広がる小春日の一日になった。夏井川渓谷は朝から紅葉見物の車で混雑した。この時期、磐越東線江田駅前に小野町のNさんがナガイモの直売所を開く。

 前はナガイモのほかに、三春ネギと同系統の曲がりネギや白菜、ゴボウも並んだ。ネギがあれば1回、袋ごと20~30本は買った。

 紅葉シーズンだけといっても、15年以上の付き合いだ。Nさんは勤め人、農作物は主に両親が栽培してきた。そんなことが問わず語りにわかってくる。

Nさんの曲がりネギは軟らかくて甘い。そのネギが直売所から消えた。何年か前、注文して次週に持って来てもらったことがある。父親が入院したり、母親が腰を痛めたりして、次第に作付面積を減らしていったようだ。

今年(2021年)も道端に並んだのはナガイモだけ。「ネギが欲しいんだけど」。私の顔を見ると、すまなさそうに「天候不順で不作でした、ゴボウもです」という。

父親が亡くなり、母親も畑から離れた今は、「ネギは自分たちで食べる分しか作っていない。うねも草ぼうぼう。それこそネギを買って食べるような状態です」と奥さん。というわけで、ささやかな楽しみはナガイモを買って終わった。

 隠居の隣の広場から自販機が消えてだいぶたつ。夏場、土いじりをしてのどが渇けば、自販機の前に立った。これも、そこにあるからこその、ささやかな楽しみだった。

 それぞれが務めを果たし、思いを実現することで「今」が維持されている。彼岸へ渡ってしまったら、そのあとを補う人が要る。隣の自販機ではそれがかなわなかった。Nさんの家の曲がりネギもたぶん、記憶のなかだけのものになる。ささやかな楽しみは、そうやって移り変わっていく。

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