2022年2月19日土曜日

黒いマスク

        
 テレビで国際ニュースかなにかを見ていたときだった。「なんでヨーロッパの人は黒いマスクなんだろ」。カミサンが不思議そうにいう。「あっちから見たら、『なんで日本人は白いマスクなんだろ』ってなる」と私。

 黒いマスク着用の理由はむろんわからない。わからないから、向こうの人が日本の今を伝えるテレビで白いマスクを見たら、やはりカミサンと同じように反応しただろう。

黒いマスクと白いマスク。いや、今は黒と白との間に青、ピンク、灰色その他いろんな色のマスクがある。

新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)だけでなく、台湾やベトナムを旅行したとき、あるいは東日本大震災と原発事故が起きた直後、ブログでマスクに触れた。それを再構成してみる。

黒いマスクに初めて出合ったのは、平成22(2010)年9月、同級生と台湾を観光したときだ。朝、出勤時間帯に台北駅近くのホテルからミニバスで台北南方の山地・烏来へむけて出発した。
 赤信号で自動車は数珠つなぎになる。そのあいだを次から次にスクーターやバイクが埋めていく=写真。信号が青になる。自動車とスクーターが一斉に走り出す。ハラハラするような距離感だ。

そのスクーター族の中に黒いマスクの人間がいた。むろん、白いマスクの人間も、マスクなしの人間もいる。日本ではテレビの映像でしか見ていなかったので、黒マスクには異様な印象を受けた。

震災の翌年に訪れたベトナムのハノイでは、道路にバイクがあふれていた。運転者は、ほとんどが排気ガスを避けるためにマスクをしていた。そのことに驚いた。

11年前の原発事故では、不要不急の外出は避ける、外出時にはマスクを――と言われた。今度のコロナ禍でもマスクが欠かせない。11年前と違うのは、色がカラフルになったことだ。黒いマスクにもすっかり慣れた。

100年前にスペインインフルエンザ(スペイン風邪)がはやったときには、マスクは黒色だった。

一昨年(2020年)の暮れ、文藝春秋から創業者で作家の菊池寛(1888~1948年)の文庫本『マスク』が出た。「スペイン風邪をめぐる小説集」で、元日付の書籍広告で知り、すぐ買って読んだ。中に黒いマスクが登場する。

ネット情報によると、日本ではまず炭鉱や工場の防塵用としてマスクが使われ、スペインインフルエンザがはやって、政府が衛生用マスクの利用を呼びかけたことから一般化したようだ。当時のポスターや写真を見ると、黒いマスクも白いマスクもある。

それがいつの間にか「マスクは白」というイメージに変わった。その意味では、黒いマスクは復活しただけにすぎない。

ウクライナ関連でたびたびメディアの前に立つアメリカのバイデン大統領は黒マスク、メディア側には白マスクも。結局は好みの問題か。

震災から1カ月半後の4月下旬、東京・代々木でアースデイの催しが開かれた。来場者はほとんどマスクをしていなかった。マスクをして出かけた私とカミサンは、1F(イチエフ)に近いいわきと電力消費地・東京との意識の違いにがく然とした。

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