2022年2月3日木曜日

寄り道をする

                              
    いつかは現物を見たい――。気になっている道標があった。日曜日に利用する幹線道路から一本、中に入ったところに立つ。

寄り道すればいいだけの話だが、なぜか忘れてしまう。あとで「しまった」となる。この繰り返しだ。

 いわき市好間町川中子(かわなご)字八方屋(はっぽうや)。いわき駅裏、物見ケ岡の北を流れる好間川と夏井川にはさまれた一帯を川中子という。西側を幹線道路(国道399号)が走る。

いわき駅を起点にすると、北目町で好間川の平川橋を渡り、ほどなく夏井川の磐城橋を渡って平窪に抜ける。道標が立っているのは、平川橋を渡ってすぐ東側の家並みの奥だ。

いわき市暮らしの伝承郷で、11月から1月にかけて、企画展「いわき地方の道標」が開かれた。①道標と地域の民間信仰の様子を紹介する②道標に刻まれた地名や昔の道筋などを明らかにする③いわきに多い閼伽井嶽への道標を紹介する――。この三つの切り口で展示が構成された。③では八方屋の道標も取り上げた。

いわき地域学會の初代代表幹事、故里見庫男さんが代表を務めた浜通り歴史の道研究会が平成20(2008)年、『道の文化財――福島県浜通り地方の道標』を出した。これにも載っている。

『道の文化財――』によれば、道標正面には「閼伽井嶽道」と大きく彫られ、右わきに小さく「あかゐたけ」と添えられている。材質は仙台石(粘板岩)で、高さは212センチ、幅は67センチ、奥行きは8センチと板状だ。明治30(1897)年に建立された。

 日曜日に夏井川渓谷の隠居で土いじりをする。行きは夏井川左岸、山側の田んぼ道を利用する。帰りは街へ寄ることが多いので、国道399号をそのまま進む。

磐城橋を渡る。赤井からの新旧道路二つが接続する。古い方の交差点を左折すれば、すぐ道標に会える。

1月30日の日曜日。磐城橋を渡ったところで、「きょうこそは道標を見る」と決めて左折した。カミサンはどこへ行くのかとけげんな表情になった。

その界隈に足を運ぶのは初めてだ。道標は家の角地に立つ=写真。道は細い。が、近くに大きな石蔵がある。それもあって通りのたたずまいが落ち着いている。

家に帰ってグーグルアースや地図を眺めているうちに、徒歩か馬車の時代には、八方屋のこの道が幹線道路ではなかったか――そんなふうに思えてきた。

 今こそ国道399号が幹線道路だが、八方屋の道標の前を西へ向かうとすんなり赤井の道につながる。

 『道の文化財――』に故佐藤孝徳さんが書いている。「磐城街道(国道399号)と閼伽井嶽薬師への参拝道(県道小川・赤井・平線)との追分の地に建てられたのが、この道標である」

 道標が最初からそこにあったなら、間違いなくこの通りは幹線道路(磐城街道)だった。好間川寄りには好間・今新田への分岐点がある。ちょっと行って今度は赤井への分岐点だ。街道をそのまま進めば夏井川の堤防に出る。

車が往来する国道399号をいったん地図から消すと、徒歩時代の磐城街道と脇道が浮かび上がる。こんな空想を可能にするのが寄り道の妙味ではある。

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