書店の「角忠」から毎月、岩波書店のPR誌「図書」が届く。2月号に巽好幸「和食文化を育む世界一の変動帯、日本列島」が載る。著者は地球科学が専門の「マグマ学者」だ。地質学から和食を論じる視点がユニークで新鮮だった。
和食の本質に迫るには、特色ある食材がどのような自然によって育まれたのかをきちんと理解する必要がある、それには地球上で最も震源地や火山が密集する「変動帯」日本列島で、和食を育む自然が誕生した地質学的な背景を知ることが大切だ、という。
著者はそれを「美食地質学」と呼ぶ。美食地質学に基づく本も書いた。『和食はなぜ美味しい――日本列島の贈りもの』(岩波書店)=写真。図書館のホームページに当たると、「民俗学」ではなく「地球科学」のコーナーにあった。これも新鮮な驚きだった。さっそく借りて読み始めた。
「図書」のエッセーでは「「明石鯛」を取り上げている。「瀬戸内海では、高速潮流の瀬戸(海峡)と、比較的海が広がり穏やかな灘が交互に配置している。瀬戸では潮流が鯛や蛸を育み、灘は泥質の海に穴子や鱧が暮らす。このような特異な内海の地形を造ったのが、フィリピン海プレートの運動だ」
去年(2021年)秋のことだが、いつもの魚屋へカツオの刺し身を買いに行ったら、天然のマダイの粗をもらった。粗汁にして食べると、“こぶ”のある骨があらわれた。
ネットで検索したら、「鯛(たい)の九つ道具」という言葉に出合った。主にマダイの持つ9種類の骨の総称だ。そのなかの一つ、「鳴門骨(なるとほね)」らしいことがわかった。
鳴門骨は流れが急な渦潮の鳴門海峡を泳ぐ大型のマダイにしかない、という話も載っていた。とにかく珍しいのだろう。
高速潮流までは目がいっても、それを生み出す地形と地質には、しかし思いが及ばなかった。私の舌は「美食地質学」には届いていなかった。
『和食はなぜ美味しい――』は、マグマ学者が「姪っ子」を引き連れて食べ歩いた12カ月の記録という体裁をとっている。1月「おでん―出汁は山紫水明の恵み」、2月「寒鰤―日本海誕生のヒミツ」、3月「ボタンエビ―大きくなる日本列島」……と、地球科学的なサブタイトルがつく。
10月は「松茸と栗―列島の背骨、花崗岩」だ。真っ先にこれを読んだ。マツタケは貧栄養で乾燥した花崗岩質の土質を好む。クリも花崗岩質の土壌が適している。
マグマ学者は姪っ子の疑問に答えるかたちで日本列島に花崗岩が多い理由を説明する。要するに、「普通より熱いプレートが沈み込むと、プレートの一部である玄武岩の海洋地殻が融けて、花崗岩質のマグマがつくられる」、その結果らしい。
さて、私たちが住んでいる「変動帯」とは? 「地球の最も外側、ゆで卵の殻にあたる『地殻』が活発に変動するゾーン」のことだという。地震や火山噴火などの試練にさらされながらもその恩恵を食につなげてきた――それが世界に誇る和の食文化ということになる。
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