ネギには春まきと秋まきがある。夏井川渓谷の隠居で栽培している「三春ネギ」は、いわきの平地のネギと違って秋に種をまく。
三春ネギは自分の子孫を残すために、春先、花茎を伸ばす。やがて、その先端にネギ坊主ができる。ネギ坊主は小さな花の集合体だ。花が咲けば実が生(な)り、種が形成される。
6月、ネギ坊主から黒い種がのぞくようになったら、これを摘み取り、乾燥させて殻やごみを取り除き、種だけを小瓶に入れて冷蔵庫で保管する。
播種(10月)~定植(翌年5月)~追肥・土寄せ(夏・秋)~収穫(冬)がネギづくりのサイクルで、並行して次の栽培のために種を採る。
田村市では曲がりネギにするために、8月、「やとい」という伏せ込み作業をする。私もそれにならって溝を斜めに切り、ネギを植え直していたが、最近は炎天下の作業を敬遠して、そのまままっすぐな三春ネギにしている。
とまあ、これは種で増やすネギの話だ。種ではなく、株が「分げつ」して増えるネギもある。いわきの昔野菜(伝統野菜)でいうと、「もてねぎ」。
このもてねぎが後輩から届いた。「酢味噌和えがいい」。カミサンに頼むと、何日か晩酌のおかずになって出てきた=写真。
いわき昔野菜発掘事業の成果として、いわき市から昔野菜図譜3冊、レシピ集3冊の計6冊が発行された。『図譜 其の弐』と『レシピ集
2』にもてねぎが登場する。
『図譜 其の弐』は、三和町のもてねぎを取り上げた。栽培者の姉が茨城県から導入したものを譲り受けて自家消費用につくっている。分げつする性質が強く、ネギ坊主はできない。
5~6月に株分けをして定植し、早ければ10月ごろから食べられるが、畑に植えたままにしておけば一年中食べられる。
4年前、いわき昔野菜フェスティバル(いわき昔野菜保存会主催)が開かれた際、もてねぎなどが参加者に配られた。昼食の昔野菜弁当にはトン汁がサービスで付いてきた。中に小川町下小川のもてねぎが入っていた。やわらかかった。
『レシピ集 2』には、家庭料理として「もてねぎの酢味噌和え」が紹介されている。それが潜在意識となって残っていたのだろう。
酢味噌和えだけでなく、味噌汁にも加えた。好みの食感だが、甘みは三春ネギや「いわき一本太ねぎ」まではいかない。
もてねぎはいわきの方言由来だろう、という。いわき市教育委員会が発行した『いわきの方言調査報告書』(2003年)に「もでる(もてる)=作物が茂る。分けつ(注・分げつ)する」とある。
種で増える三春ネギも分げつする。ネギ坊主をちょん切られたネギはそれで終わり、ではない。掘り起こして外皮をむくと、新しい株ができている。花茎は硬いので食べられない。土に返す。分げつ苗は溝に植えなおすと、普通に育って食べられる。
種であれ、株分けであれ、三春ネギのいのちを絶やさないこと――これが原発事故後の極私的な教訓だ。
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