「科捜研の女」は沢口靖子が主演するテレビドラマだ。科学捜査研究所、略して科捜研。歴史や現状を知らないまま、「科捜研」だけはテレビのおかげで耳になじんでいる。
日本では、警察庁に科学警察研究所、警視庁と各県警に科学捜査研究所がある。前者が科警研、後者がいわゆる科捜研だ。
これらのルーツの一つともいうべきフランス・リヨンの科捜研創設者の伝記を読んだ。ジェラール・ショーヴィ著/寺井杏里訳『科学捜査とエドモン・ロカール――フランスのシャーロック・ホームズと呼ばれた男』(鳥影社、2023年)=写真。
図書館の新着図書コーナーにあった。迷わず手が伸びたのは、若いときに「サツ回り」を経験したからだ。
交通事故だって、窃盗だって、一つとして同じものはない。交通事故であれば、スピードは、アルコールは、信号は……といった事故の要因になり得るものを想像し、警察に疑問をぶつける。ときには、当事者の心理状態にも思いをはせる。
取材力の足りなさを痛感しながらも、事件・事故は個別・具体であり、1件1件が異なる、記事にするためには科学を基礎にした質問力を鍛えねばならないことを学んだ。
若いときの経験が元になって、知らないことは聞く・読むという習慣ができた。ネットが普及する前は、当然、図書館を介して「答え」を探った。
今は図書館とネットを併用している。ネットでササっと検索してわかったつもりには、どうしてもなれない。本を読んで裏を取る――それが習い性のアナログ人間なので、図書館へはよく出かける。
文学系は楽しみのために、自然科学系は知識を得るために。数学や物理学はさておき、動植物や鳥類、菌類、地理などは、一般向けの本が出回っているのでありがたい。
その延長で「科学捜査とエドモン・ロカール」を読んだ。エドモン・ロカールは「フランスのシャーロック・ホームズ」と評されるだけでなく、「フランスの犯罪学の父」とも呼ばれる存在だという。
「指紋、足跡、衣服についた痕跡や残された繊維、死体、筆跡などは科学的に調べる要素の一部で、犯人を見つけるうえで役に立つ。科学捜査の分野でエドモン・ロカールは先駆者であり、彼が開設した科学捜査研究所は世界標準」になった。
指紋検査法は19世紀から20世紀初頭にかけて、犯罪捜査の分野に導入されたという。そこまでには指紋についての研究が蓄積される。
コラムにボヘミア(現チェコ)生まれのヤン・エヴァンゲリスタ・ブルキニェは「指紋研究の父」とあった。それだけではない。17世紀イタリアの解剖学者マルチェロ・マルピーギは「指紋研究の祖父」だという。その言い方がおもしろかった。
なかでもうなったのは、エドモン・ロカールの息子ジャックの功績だ。「アルコール検知器の先駆けとなる『エブリオスコープ』を発明」したという。こうやって科捜研は絶えず新たな犯罪と向き合っているわけだ。
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