栃木県民といえば、真っ先に思い浮かぶのはキノコのチチタケ。チチタケは食菌だが、煮ても焼いてもボソボソしてうまいとはいえない。ところが、これを栃木県民は殊の外、喜んで口にする。
いわきキノコ同好会が発足して間もないころ、栃木県までその「秘密」を探りに行った会員がいる。同県民が好むのは「ちたけうどん」。ポイントはチチタケを油で炒めることだった。炒めるとよいだしが出る。
栃木県からもたらされた調理法が同好会内に広まり、わが家でも震災前は「ちたけうどん」が夏の定番になった。
調理はいたって簡単だ。採ってきたチチタケを水に入れてごみと土を取り、刻んでナスと一緒に炒めて醤油で味付けをする。これに水を加えて加熱すると、得も言われぬスープになる。わが家に来た外国人女性に「ちたけうどん」をふるまったら、絶賛された。
原発事故が起きてからは知らないが、それまでは夏場、いわき市南部を中心に「栃木」ナンバー(その後、「宇都宮」「とちぎ」「那須」に変更)の車が山道に止まっていた。
同好会の観察会に参加したときに遭遇した。「チチタケ採りだな」。同好会の会員には、理由はお見通しだった。
そのころ、福島県内でキノコ採りの遭難事故がニュースになることがあった。栃木県民であれば、チチタケ採りとみて間違いなかった。
栃木県内だけでは間に合わなくなったのだろう。7~8月になると、いわき市の山はもちろん、中通り、あるいは会津の山へとチチタケ採りがやって来る。それに合わせて遭難事故も増えた。
さて、「いわきキノコ同好会会報」第28号が3月末に発行された=写真。元郡山女子大学の広井勝さんが、「栃木県民のチチタケの嗜好性について」と題する論考を寄稿した。
論考は、「食生活研究」第41号(2021年)に掲載されたものを、会報用に改訂したものだという。
栃木県のある高校の父母・教員を対象にアンケート調査を行い、比較のためにチチタケに詳しい栃木県きのこ同好会メンバー(22人)にも同様の調査をした。
それによると、チチタケを「食べたことがある」のは7割強(同好会のメンバーは全員)で、食べたことのある人の8割強がチチタケを「好き」と答えている。
理由は、半数近くが「よいだしが出るから」だった。「うどんによく合う」も加えると、6割がだしのよさを挙げている。
食べるようになったきっかけは、「昔から、子供の頃から」が半数近くあった。古くからチチタケの存在が身近にあり、食べる機会が多かったのだろうと、広井さんは推測する。
入手方法は、意外といえば意外だった。「人からもらう」が7割近くで、「自分で採る」は2割弱。同好会のメンバーは6割が「自分で採りに行く」だった。
出始めのころ、デパートなどでは「5~6個で3000円の値段で売られていた」という。これには驚いた。栃木では、チチタケは特別な食菌であることが、あらためてアンケート調査からわかった。
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