2023年5月24日水曜日

ホトトギスが飛来

                      
   JR磐越東線の時刻表は頭に入っている。夏井川渓谷を通る列車は、上り・下りとも朝2本、午後2本、夜2本の計6本だ。

 渓谷にある隠居へ通い始めて四半世紀になる。隠居の前を通過する列車は、最寄りの江田駅の出発時刻からみて、プラス・マイナス3分といったところだろうか。

 列車は時計代わりでもある。たとえば、いわきからの2番列車(下り)は朝8時51分に江田をたつ。隠居の前を通過するのは同54分ごろだ。

逆に、郡山からの2番列車(上り)は9時13分ごろ、隠居の前を通過し、同16分江田をたつ。そのあとは、午後2時近くまで列車の運行はない。列車が通過するたびに、「今、9時すぎ」「今、午後2時前」と、おおよその時間がわかる。

 日曜日(5月21日)の朝、上小川トンネルと直結する磐城街道高崎踏切に近づくと、珍しく遮断機が下りていた。

やがて列車が通過して、トンネルへと吸い込まれていった=写真。時刻は9時20分ごろ。江田を発車して数分たった2番列車であることがわかる。

 江田駅近くの踏切を超えて知り合いの家に寄り、車へ戻ろうとすると、近くの山からホトトギスの鳴き声が降ってきた。

 ホトトギスの鳴き声は、一般的には「トッキョキョカキョク」や「テッペンカケタカ」などと表記される。しかし、阿武隈の山里では「ポットオッツァケタ」である。

 ホトトギスは夜も鳴く。鳴き声が聞こえると、祖母がよく「兄弟げんか」を戒めるためにホトトギスの昔話をした。

 前に、日本昔話記録3・柳田国男編/岩崎敏夫採録『福島県磐城地方昔話集』(三省堂)を取り上げたことがある。双葉郡富岡町の60代女性から採録したホトトギスの「弟恋し」が載っている。

 ――あるところに兄弟がいた。兄は仕事に出かけ、弟は山へ行って芋を掘って暮らしていた。兄思いの弟は、芋のおいしいところを兄に食べさせ、自分は芋の端っこばかり食べていた。

ところが、腹黒い兄は、弟が自分よりもっとうまいところを食べているのだろうと邪推して弟を殺し、腹を裂く。中から出てきたものは芋の皮や“しっぺた”(端っこ)ばかりだった。

 兄は悔い悲しんで、ホトトギスになった。春から夏になると、それで「弟恋し弟恋し」と鳴く――。

 わがふるさとでは「オトウトコイシ」ではなく、腹が裂けたことに引っ掛けて、「ポットオッツァケタ」と聞きなした。

 さまざまな鳥が隠居の庭にやって来る。土いじりをしているそばでウグイスがさえずる。あるいは「フィーチョー、フィーチョー、フィフィフィ……」などと複雑な節回しで鳴き続ける鳥がいる。ガビチョウらしかった。

 今は午後の列車が通過する前に街へ下ることが多くなった。泊まれば、最終列車が通過したあとも鳥の鳴き声を聞くことができる。

そういえば、5月10~16日は愛鳥週間だった。人間界の用事に追われてすっかりそれを忘れていた。

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