JR磐越東線でいうと、始発のいわき駅から次の赤井駅を過ぎたあたり。小川町との境にある切り通しを抜けると、夏井川の左岸に水田が広がる。
昭和17(1942)年10月、中国から一時帰国した草野心平は、4年ぶりに列車(ガソリンカー)に乗って故郷へ帰る。
そのときの詩「故郷の入口」に、「もう切り割だ。/いつもと同じだ。/長い竹藪。/いつもと同じだ。」とある。
「長い竹藪」はそのころから、夏井川の両岸(西小川・下小川)を小川郷駅の方へと伸びていたことがわかる。
心平の詩を読んで以来、磐東線と並走する西小川の道路を通るたびに、「長い竹藪」も手入れ次第では立派な記念物になるのではないか、などと考えたものだが……。
夏井川渓谷の隠居で土いじりをした帰り、思い立って小川郷駅へ寄り道をした。ふだんは夏井川に沿ってまっすぐ県道小野四倉線~国道399号を戻るのだが、駅のそばに新しいいわき市小川支所の建物ができた。それがどんなものか見ておきたかったのだ。
昭和31(1956)年、小川町役場が建設される。14市町村が合併していわき市が誕生すると、役場はそのままいわき市小川支所として利用された。
老朽化に伴う新築移転が計画されているなか、「令和元年東日本台風」がいわき市を襲った。なかでも平地の夏井川流域では支流の好間川・新川を含めて、甚大な被害を受けた。
小川支所も1階部分が浸水した。そこで新しい支所の建物は土台がかさ上げされて建築されることになったそうだ。すでに1月12日に落成式が開かれ、同30日から新庁舎で業務が行われている。
工事を請け負ったのは堀江工業だ。同社のフェイスブックによれば、新庁舎は鉄骨2階建てで、1階に住民交流の場でもある地域活性化センターなどが設けられた。支所の業務は2階で行っている。
もう一つ、支所建設と連動するように、夏井川に架かる小川橋の架け替え工事が行われた。これも堀江工業が請け負った。
同社の創立百周年記念誌『百年の軌道』(2020年1月刊)によると、昭和11(1936)年、同社が小川橋の架け替え工事を落札し、夏井川に架かる橋としては初のコンクリート橋ができた。80年余がたって、再び同社が架け替え工事を手がけたわけだ。
実は新しい橋をまだ利用したことがなかった。新しい橋と支所、駅をつなぐ道路も新設された=写真。個人的な「渡り初め」を兼ねて、駅前へと寄り道をした。
心平は昭和17年秋、小川郷駅に着いたあと、こう述懐する。「ああ見える。/眼前に仰ぐ二箭山(ふたつやさん)。/阿武隈山脈南端の。/美しい山。/美しい天。/おれは泪にあふれながらオモチャのやうな地下道をくぐる。」
小川地区でもなお、水害の復旧・防災工事が続く。「長い竹藪」もかなり姿を消した。長い歴史を持つ「竹藪」はやがて、心平の詩のなかだけの存在になってしまうのかもしれない。
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