夏井川渓谷の小集落・牛小川に地区の鎮守「春日様」がある。祭りは、アカヤシオ(方言名・岩つつじ)の花が満開になる日曜日を見計らって開かれる。今年はきのう(4月10日)だった=写真。
この冬は温暖気味に推移した。冬だから寒い日もむろんあったが、滝が凍るほどではなかった。地温が思ったより下がらなかったのかもしれない。アカヤシオの花のほかに、かなりの落葉樹が芽吹き、地べたの野草たちが早々と開花した。前にもちょっと触れたが、三春・五春・十春、いや、おおげさにいうと「百(もも)の春」だ。一気に、至る所に春が来た。
4月も10日に渓谷が「山笑う」状態になるのは珍しい。渓谷へ通い始めて20年余の私だけではない。地元の人たちも「春日様の日に花でこんなにきれいなのは初めてではないか」という。
現役のころは土曜日、集落の一角にある隠居に泊まって春日様の祭りに備えた。で、早朝、お祝いのおこわを届けてくれる人がいた。今年も「腹を空かせているのではないかと思って、持って行ったら留守だった」。そう、このごろは一人でいろいろやらないといけないことが増えたので、現役のころより忙しい。当日朝にやって来て夕方には帰る、そんなあわただしい週末を送っている。
集落の裏山、急斜面の中腹に春日様の小社がある。参拝に5分ほど遅れた。街で買い物をしたあと、渓谷へ向かったが、先行する2台の車がトロトロ運転だった。2台とも渓谷の花が目当てだった。
隠居に着いてすぐ春日様へ向かう。何度も足を止めては息をととのえながら小社が見えるところまで行くと、柏手(かしわで=拍手)の音が聞こえた。それから少したってみんなに合流した。ではと、私のために再度「2礼2拍手1礼」をしてくれた。
参拝後は恒例の「直会(なおらい)」が行われる。去年(2015年)からヤドが替わった。1軒の家の一角に交流スペースができた。納屋かなにかを改造したもので、土間にテーブルといす、一段高いコンクリートの床にはカラオケ装置がセットされている。
そこで談笑していると、私の孫が2人、カミサンとやって来た。父親とアカヤシオの花を見に来た。それを告げるために直会の会場に姿を見せたのだ。
私を除いて牛小川に住んでいるのは8世帯。子どもは、今春、中学生になった1人だけだ。「子どもは、牛小川では天然記念物だ」という。子どもの歓声が消えて久しい。希少だから価値がある? 下の孫は私の隣の席に座った。「天然記念物」だけに大歓迎された。
孫は牛小川の隠居を「山のおうち」と言っている。「山のおうち」で過ごす以上は、牛小川の“半住民”には違いない。「山のおうち」にも、人間のつながりがある。自然がきれい、だけではない。そのことを、いつか教えてやろう。
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