2019年4月16日火曜日

直会は学びの場

 きのう(4月15日)の続き――。日曜日の朝10時、定宿(じょうやど)から山中の「春日様」へ向かう=写真。戻って直会(なおらい)が始まった。
  直会の席は、夏井川渓谷の自然と人間を知る絶好の学びの場だ。小集落の周りの森にすむ生きもの、山菜やキノコ、川の魚たち……。書籍では得られない“現場”の情報にいつも圧倒される。 

 私は、グルメにはふたつある、と思っている。シェフがどう、ミシュランがどう――というのは、街の消費者の「レストラングルメ」のことだ。一方で、イノシシを仕留めて食べる、マツタケを採って食べる――といった「サバイバルグルメ」もある。渓谷の住民は後者の方だ。捕って(採って)、調理し、食べるサバイバル術を、小さいときから暮らしの中で培ってきた。

 私も野鳥や野草、キノコに興味がある。直会では、いつもこれらの話になる。今回は珍しく、イノシシからキノコまで精通しているA・Kさんが私に水を向けた。

「珍しいキノコを見つけたんでないの?」「ああ、熱帯のキノコのアカイカタケね」。詳しい説明は避けるが、同じ小川町の山で昨年(2018年)9月、いわきキノコ同好会の観察会が開かれた。前年、日本固有のトリュフ「ホンセイヨウショウロ」が発見された。トリュフの生息環境を知りたくて参加したら、たまたま林道沿いでアカイカタケを見つけ、採集することができた。

東北では初めてということで、同好会の会長から情報を得た古巣の後輩が取材に来て、新聞に載せた。A・Kさんはそれを覚えていたのだろう。

アカイカタケとトリュフの話をきっかけに、キノコの“取材”を始める。「マツタケの味噌漬けって、どうつくるの?」。わかる人がいなかったが、食べた人はいる。「うまくねぇ。マツタケは採りたてを食べるのが一番」。全員がマツタケを採る、といってもいい。でも、すべてマツタケについて知っているわけではない。そのくらいは、もう20年以上つきあっているのでわかる。

Kさんが“ツチカブリ”の話をした。オウム返しに聞く。「ツチカブリって、白いキノコ?」「違う、クロカワ」。なるほど、動植物、なかでもキノコは和名と方言に留意しないといけない。和名のツチカブリはベニタケ科で白く、乳液を含む。方言のツチカブリ(和名クロカワ)はイボタケ科で黒く、落ち葉などにまぎれて見つけにくい。私は、採ったことがない。

世捨て人のように山にこもり、時折、集落をうろついていた「ゲンゴさん」のことも話に出た。住民が子どものころだったそうだから、昭和30(1955)年代後半から40年代前半のことか。

哲学者の内山節さんが『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』(講談社現代新書)と『「里」という思想』(新潮選書)の中で、人間の「山上がり」について書いている。そのことを思い出した。ゲンゴさんの話はいずれ紹介したい。

0 件のコメント: