母親に教えられたのだろう。ちびちゃん、いや――この際、新元号の「令和」にならおう――令嬢が文庫へ入る前に、「タカじい」と声をかけて手を振った。おや、来たか。こちらもこたつに入ったまま手を振ってこたえる。7歳と70歳。私にとっては最年少の知り合いだ。
令嬢とは何度か顔を合わせている。といっても、彼女が3歳とか5歳のときだが。幼稚園は?と一瞬思ったが、卒園したばかりだ。来週の4月8日には小学校の入学式が待っている。
手元に、届いて間もない月刊の『常陽藝文』4月号がある。特集は岡倉天心を茨城の五浦(いづら)に案内した日本画家飛田周山。表紙絵=写真=を何気なく見ていたら、今、家に来ている令嬢にそっくりではないか。母娘が帰ったあと、カミサンに『藝文』を見せると、「似てる!」とうなった。
令嬢がなりたいことははっきりしている。デザイナー、だそうだ。文庫で描いたドレスのお嬢さんの絵を持ってきて、「プリントして」という。パソコンとつながっているプリンターで何枚かコピーしてあげた。
なんとはなしに絵を見ると、ドレスに「HAPPY」という文字が入っている。ウエディングドレスか。母親は英語がペラペラだ。だから、というわけではないだろうが、英語にもなじんでいるようだ。それよりなにより、令嬢にはこちらの意表を突つくおもしろさがある。
“デザイン画”とコピーを文庫に持ち帰って少したったあと、また茶の間へ現れた。カミサンもあとを追ってきた。令嬢が、絵本を手にして「これ、(もらっても)いい?」という。見ると、いわむらかずお(1939年~)の『14ひきのあきまつり』だ。キノコが描かれている。「キノコが……」というと、「キノコ?」。なに、それ、といった表情になった。そばでカミサンが「いいよね」と念を押す。「いいよ!」
「14ひきのシリーズ」はいわむらかずおの代表作だ。野ネズミの大家族(おとうさん、おかあさん、おじいさん、おばあさん、そして10匹の子どもたち)が登場する。
『あきまつり』は、カワラタケやクリタケ、アイタケ、ベニテングタケ、シシタケなどのキノコが主役だ。キノコを担ぐキノコたち、それを見物するキノコたち。野ネズミたちが遭遇した森の「キノコのまつり」が描かれる。おととし(2017年)の夏、いわき市立草野心平記念文学館で「いわむらかずお絵本原画展」が開かれた。そのとき、キノコの文献として買った。
晩酌の時間になって、カミサンが解説してくれた。『14ひきのシリーズ』は、令嬢もいろいろ持っているらしい。でも、『あきまつり』は「持ってない」。カミサンが「タカじいに聞いてみたら」とでもいったのだろう。
いいよ、いいよ、「入学祝い」だ、あげる――。「でも、キノコの文献としてはよかったなぁ」とこぼすと、カミサンが応じた。「今度、私が買ってあげるからね」。あとでよくよく考えたのだが、この絵本を買ったことはすっかり忘れていた。キノコの文献としては、先日、総合図書館から借りてきて読んだばかりだった。令嬢のもとに行く運命の絵本だったのだ。
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