2019年4月28日日曜日

「後ろ倒し」いつから

 NHKが木曜日(4月25日)の「おはよう日本」で、日産のゴーン前会長の初公判について、こんなふうに報じていた。「新たに追起訴されたことで前会長の日程は後ろ倒しになるとみられます」。「後ろ倒し」? ことばとしては初めて聞くので、調べてみた。
「NHKニュース 後ろ倒し」で検索すると、NHK放送文化研究所の<メディア研究部・放送用語>の滝島雅子さんの文章に出合った。苗字に覚えがあった。福島放送局が初任地のアナウンサーだ(った)。今は「文研」の研究員として放送用語などを調べているらしい。

「NHKニュース 後ろ倒し 4月25日」では、冒頭に紹介した記事の一部(「後ろ倒し」の字が見える)と、見出し「ゴーン前会長 長期勾留に注目集まる 裁判所の“異例”の判断も」が目に飛び込んできた=写真。それをクリックして本文を読むと、ん? 「後ろ倒し」ということばはない。代わって、「――日程は当初の見通しより遅れるものとみられます」とあった。「後ろ倒し」に対する違和感・苦情が寄せられたために“修正”したか。

で、滝島研究員の文章(「『前倒し』と『後ろ倒し』」)である。去年(2018年)3月にアップされた。Q&Aのかたちをとってポイントを示したあと、解説を加えている。

Q:「前倒し」はよく耳にする表現だが、「後ろ倒し」は、放送のことばとしては、適切だろうか。
A:どちらも放送で使うことがありますが、いずれも、もともとは政治家や官僚の業界用語として使われ始めたものです。放送では、安易に使わず、ほかの表現も探る努力も必要でしょう。

解説では、2015年9月8日、経団連が「大学生らの採用面接の解禁を8月に後ろ倒しにした今の指針の検証を行う方針」といったニュースの使用例を紹介している。

その2年前、今の首相が就職活動の「後ろ倒し」に言及し、「ことばの問題として注目されると同時に、メディアにおけることばを話し合う新聞用語懇談会でも取り上げられました」という。大平正芳首相だったら、たぶん「後ろ倒し」には強烈な違和を覚えて「先送り」と言い換えたことだろう。

その懇談会でのやりとりを伝える読売テレビの人間のブログもあった。フジテレビ「各社はこの表現を使っているのか」。NHK「政府コメントで『就職協定を“後ろ倒し”にして』と最近よく出て来る。『先送り』の言い換えではないか?」。共同通信「社内の用語委員会でも問題になった。『前倒し』も、そもそも役人用語」(以下略)

滝島解説に戻ると――。用語懇談会では、肯定的な意見の一方で、「俗語的で使いにくい」「取材先の官庁でさんざん使われているが違和感が強く当面使わない」「あまり広げていくべきでない、注意する語」といった慎重な意見が大半を占めたという。

ただ、1973年ごろに現れた官庁俗語の「前倒し」も、半世紀近くたった今は、だれもが違和感なく使っている。「『後ろ倒し』も今後、なじんでいくのかもしれません」といいつつも、滝島研究員は「取材先が使っているからといってそのまま使うのでなく、放送で使うときには、ほかに相応しい表現がないかを考える努力も求められるでしょう」とくぎを刺す。

念のために、座右にある共同通信『記者ハンドブック 新聞用字用語集』12版にあたると、「後ろ」の項に「後ろ倒し」はなかった。最新の13版はどうか。図書館へ行って確かめたら、やはりなかった。「後ろ倒し」はまだまだ一般的ではない。

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