2019年9月8日日曜日

ムシカビを教えられる

 冬虫夏草? ムシカビでないの――。11年前、彼に教えられなかったら、白いカビに覆われて死んでいる昆虫を、今も冬虫夏草と誤認していたかもしれない。
 私が会社を辞めるまでの何年間か、ウマの合った同業他社の記者がいる。朝日と毎日のいわき支局長で、共通項は同年齢、本業を離れると自然を相手に過ごすことだった。私はキノコ、朝日の支局長は冬虫夏草を研究し、毎日の支局長は釣りを楽しんだ。2人ともいわきで定年退職をし、そのまま相次いでいわきの山里(遠野町)に定住した。

 今年(2019年)の8月中旬、夏井川渓谷の隠居の庭で久しぶりにムシカビを見た=写真。上翅に点々とある白斑からゴマダラカミキリとわかった。これを採取しようとしたら、コケまで付いてきた。ということは、コケの上に着地した瞬間、息絶え、内部を浸食していたカビが節々から現れて体を覆ったのだ。

 外観は生きていたときと変わらない。冬虫夏草もそれは同じだが、ムシカビにはキノコにある「柄」がない。「昆虫病原糸状菌という意味では冬虫夏草の仲間」でも、実際には「蚕の硬化病の原因となる白きょう病菌の仲間」とネットにあった。

 以前見た日本冬虫夏草の会のホームページによれば、これは冬虫夏草研究の第一人者、故清水大典氏の見解でもあるのだが、ムシカビとは別に、未記録の寄主例としてカブトムシやクワガタ、カミキリムシの成虫などがある。これらの虫から不完全型ではない、子嚢(しのう)果(「柄」の先にできる袋状の結実部)の生じた冬虫夏草が見つかれば間違いなく新種、だそうだ。

 朝日の元支局長は2年前の4月、長い闘病生活の末に亡くなった。それもあって、晩年は没交渉だった。風の便りが届いたあと、毎日の元支局長に電話をして経緯を聞いた。

最後にあったのは、平で開かれたミニミニリレー講演会だったか。原発震災が起きるとすぐ、朝日などの記者がいわきから一時避難した。これに彼は怒った。それをテーマにした講演だった。

 読者にいち早く情報を伝えなければならない報道機関が、その義務を忘れて読者より先に記者を避難させるとはなにごと――。あらためて硬派の一面を垣間見る思いがした。

夏井川渓谷の隠居の庭では、カミキリのほかにカマキリ、イナゴ、ガなどのムシカビが見つかっている。唯一、トンボだけは節から「柄」が出ていたから、冬虫夏草のヤンマタケ(不完全型)だった。久しぶりにムシカビを見て、彼とヤンマタケ(いつかは完全型に出合いたい)を懐かしく思い出した。

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