ダニエルは去年(2018年)、白水阿弥陀堂を参拝した。今年もラサレットと一緒に訪ねた。連続して行くくらいだから、外国人にも、白水阿弥陀堂を中心とした浄土式庭園はいわきの象徴、いや聖地と映るのだろう。いわきを代表する世界文化遺産級のおタカラには違いない。
前にこんなことを書いた――。白水阿弥陀堂は平安時代の末期に建立された。福島県内唯一の国宝建築物だ。堂内に安置されている阿弥陀三尊は国重文で、周囲の丘の稜線と南方の白水川を境界とする境域が国史跡に指定されている。平泉の「仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」が世界文化遺産に認定されたように、白水のこの浄土式庭園も世界の、人類の財産だ、と私は思っている。
3年前の5月――。「いわき市の復興と環境配慮施策」を知るために、インドから大学生たち18人がやって来た。南インドのチェンナイ(旧マドラス)在住の建築士と西インドのアフマダバードに住む土木エンジニアの2人のホームステイを引き受けた。このときも、昵懇にしている高校の英語教師が助っ人になり、2人を白水阿弥陀堂などへ案内した。白水阿弥陀堂の見学は2人の希望だった。
さて、もうひとつのおタカラ「じゃんがら」である。1週間前の日曜日(8月18日)、ダニエル夫妻を暮らしの伝承郷に案内した。常設展示室の映像コーナーで、大型スクリーンに映るじゃんがら念仏踊りを見せた。
じゃんがらの鉦(かね)の音は「いわきの鉦の音」、リズムは「いわきのリズム」、歌は「いわきの歌」。いわきで生まれ育った人間は母親の胎内にいるときから、じゃんがらの鉦の音とリズムと歌をゆりかごにして育つ。ほかのことは忘れても、じゃんがらだけは覚えておいてほしい、という思いがあった。
その2日後(8月20日)、夏井川流灯花火大会が開かれた。いわきの夏まつりの最後を飾るイベントだ。じゃんがらが奉納される。2人に生のじゃんがらを見せる最初で最後のチャンスだ。まだ明るいうちに車で出かけた。
僧侶たちによる新盆・万霊供養のあと、じゃんがら=写真=などの伝統芸能が披露された。ダニエルは最初から動画を撮り続けた。そばの夏井川を灯籠が流れる。やがて、夜空を花火が彩る。じゃんがらと灯籠と花火がダニエル夫妻の脳裏に刻まれた。
じゃんがらと白水阿弥陀堂のほかには――。かつてのいわきを象徴するものに石炭と化石がある。市石炭・化石館(ほるる)にはいわきで発見され、新種と判定された首長竜「フタバサウルス・スズキイ」のレプリカが展示されている。
ダニエルがあるとき、「キュウリョウを見に行く」という。キュウリョウ? なんのことだ。行き先は「ほるる」。「『キュウリョウ(丘陵、給料)』ではなく、『キョウリュウ(恐竜)』のことか」「そうです」となって大笑いした。
金曜日(8月30日)、「チコちゃんに叱られる」を見ていたら、恐竜の話になった。ダニエルの「キュウリョウ」を生々しく、なつかしく思い出した。
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