2020年11月12日木曜日

「満天の星空」だって?

        
 40年近い記者生活の習慣が、その後も続いている。文章を書く(打ち込む)ときの“バイブル”は、共同通信社発行の『記者ハンドブック――新聞用字用語集』だ。「誤用」してないか、「常用漢字」かどうか、の確認に欠かせない。

会社を辞めて3年半後、東日本大震災が起きた年から足かけ7年、今は医療系の大学に変わったいわきの大学で「マスコミ論」(のちに「メディア社会論」)を担当した。学生に言い続けたのは、自分の体験と知識を「教える」のではなく「伝える」だけ、あとは自分で考えを深めてほしい、ということだった。

新聞の用字・用語の話もするので、当時最新版の『記者ハンドブック』(2011年1月発行)を購入した。今もそれを座右に置いている。『広辞苑』その他の辞書とは別に、大手メディアにはそれぞれ独自のハンドブックがある。地方紙や地域紙は共同通信のハンドブックに従う――そんなことを学生に伝えた。

前置きが長くなった。なんでこんなことを書く気になったかというと、NHKのニュースで「満天の星空」という言葉を耳にしたからだ。コロナ禍で利用客が激減した航空会社が、同じ飛行場を飛び立って、同じ飛行場に戻る星空観察会を企画した。夜間飛行である。外と同じ星空を機内に映し出す。その旅客機が「満天の星空」号だった。

「満天の星空」は「富士山山(ふじさんやま)」と同じで、天と空がダブっている。正確には「満天の星」号だ。

 この誤用はハンドブックの「誤りやすい用字用語・慣用句」には載っていない。つまり、ハンドブックに載るまで誤用は広がっていない、ということなのだが、いつまでもそうとは言い切れない。

NHKは“満天の星空”と、チョンチョン付きながら固有名詞扱いをして誤用に目をつぶった=写真。前に、記者が「満天の星空」とレポートしたことがある。それで、とうとうNHKも「満天の星空」は社会に定着したと判断したか、と思ったが、そうではなかった。ネットで“検証”すると、NHKのほかのニュースは「満天の星」だった。

しかし、チョンチョン付きでも字幕に間違った言葉が載ると、誤用が拡散されかねない、という思いは残る。

とまあ、ひとくさり語ったところで、ほかの「誤用」も思い出した。若いときに「けんけんがくがく」と書いて直された。「けんけん」ときたら「ごうごう」、「がくがく」なら「かんかん」。「かんかんがくがく(侃々諤々)」と「けんけんごうごう(喧々囂々)」を“合成”してしまった。ついでながら、「口やかましく騒ぎ立てるさま」が「けんけん――」、「正論を吐いて屈しないさま」が「かんかん――」とハンドブックにはある。

「雨模様」、雨はまだ降っていない状態だが、雨まじりのようなときに使われる例が増えた。「古来より」は「古来」のなかに「より」が含まれているから、「古来」で十分。

メディアの文章は口語体が基本。時間や場所の起点を示す「~より」も「~から」が正しい。

 最近、何かで聞いたか、読んだかした例にこんなのがあった。「持病もち」。「持病」か「病気もち」でいい。

 そうそう、来年(2021年)は東日本大震災から11年目、同3月11日は満10年の節目の日だ。先日、福島県内のNHKと民放4局が結集して、共同キャンペーン「福島to2021―あれからと、これからと→」を展開することが発表された。どこかの局に、満10年(来年)と10年目(今年)をごっちゃにしていたキャスターがいたような……。

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